7:湖の攻防(2)
文字数 1,547文字
それが合図なのかクセなのかは判らなかったが、それに合わせて自分も重心を傾ける事で、足場がかなり安定した。
右側から飛び出してきた大物を叩き損ね、右腕に装備している
一瞬、息を
驚いて振り返ると、顔面に大きな傷を負って体液を溢れさせた
ファルサーは剣の柄で
殴りつける直前に間近で見た、
薄く、鋭利で、しかし深く切り裂かれたその傷は、ファルサーではつける事が出来ない、明らかに
だとすれば、この解りやすいほど必ず示されている、アークの背中の合図も…。
「身を守るのも、走行中に振り落とされないように気を配るのも、全て自己責任だと言いませんでしたっ?!」
「よく聞こえない! 緊急でないなら、あとにしろ!」
振り返りもせず、返事もまたひどく突き放したような口調だった。
しかしファルサーだけではどうしても手が回り切らない複数からの襲撃、一瞬の隙を突いてくる襲撃を、アークが
アークのソリが湖面を渡り切るのに掛かった時間は、ファルサーが考えていたよりも遥かに短かかった。
岸に上がると、アークは砂地の上を大きくスピンさせてソリを止め、あとを追って岸に上がってきた
「走れ!」
浜から陸地の奥に向かって走ると、
ファルサーは立ち止まり、完全に凍りついている湖面を見渡して、溜息のような深呼吸をした。
「どうした、疲れたのか?」
「いえ、ただもう、本物ってものを初めて見たから、驚いているだけです」
「
「いいえ、ありますよ。でも、こんなすごいのは見たコトありません。これを見てしまったら、帝国が誇る
「麓の町は、この島のドラゴン討伐のために各国の軍や
「そんなすごい
「私は私だ。誰の指図も受けない。そんな事より、この先の道案内は私には出来ないぞ。先導してくれたまえ」
「え…、それじゃあ本当に同行してくれるんですか?」
「
アークの答えに、ファルサーは表情を崩した。
だがその笑みは直ぐにも別の感情に塗り替えられて、その感情を隠すようにファルサーは俯いた。
張り詰めていた気持ちが緩んだら、笑みよりも涙が出てきたからだ。
「私の命が危険に晒された場合は、君を置いて逃げるぞ」
「構いません。これは僕の使命です。…でも、あなたが来てくれたから、なんだか生還出来る可能性も出てきたような気がします」
「どうかな? ドラゴンのほうが、私より能力が優っている可能性は否定出来ないぞ」
アークの返事が、その言葉や態度ほどに素っ気ないものでは無い事を感じて、ファルサーは嬉しく思った。