第6話 境内の看板

文字数 838文字

階段を登り終えると、お(やしろ)、それに渡り廊下で接続された社務所、そして杉の木に囲まれた野球グラウンドのダイヤモンドくらいの広さを持つ砂利敷きの広場に出た。

笹山は時計を確認し、「約束にはまだ早いか」と呟いた後で、正裕を例の魑魅魍魎について説明された看板の前へと案内した。目の前に、まだ鮮やかな色彩をした鉄製の看板を据える。

「結構綺麗な感じですね。公園みたいな錆びて寂れたところをイメージしてました」

素直に感想を述べる正裕を、笹山は「おい、失礼だろ」と睨みつけたうえで叱った。しかし、その後で顎に手を添えて、「しかしまあ、確かに一理ある。管理する人がしっかりしているからだろうな」と誇らしげに呟いた。

正裕は、田舎の神社と聞いて、くたびれてボロボロの、心霊スポットにでもなっていそうなところを想像していたが、お社にしろ、社務所にしろ、風化して歴史が感じられる部分はあるものの、日頃から整備されている清潔感があった。

「ここをみろ」
そう言って笹山が指差す先に、歴史の教科書に出てきそうな平安期の絵巻物風の絵が、白色に塗られた鉄板の上に印刷されていた。

目の前の兎や犬に向けて、威嚇するかのように両手をコの字に広げた一人の禿げた男がいる。対して男の前の動物達は、今にも男に襲い掛からんと走っている。しかし、動物達の上には大きな釜が今にも倒れそうに傾いているのだった。

禿げた男が"じごんさま"という奴で、その眼前の動物が魑魅魍魎、倒れかけの釜が伏釜山なのだろう。山にしては、幾分釜のサイズが小さ過ぎるが。魑魅魍魎も、何の前情報なくその絵だけを見れば、動物達は動物達にしか見えない。

「これが魑魅魍魎の絵だ。ほら見ろ。蛙もいるぞ」

正裕は笹山の視線を追って蛙を見つけた。決して人間の形をしていない、鳥獣戯画に描かれているような蛙がそこにはいた。

「君が正裕くんだね」

そのとき、低く落ち着いた声が砂利を踏み締める音と共に背後から届いた。振り返ると、白髪の威厳を備えた白衣姿の老人が、こちらに歩いてきていた。
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