第7話 社務所

文字数 532文字

看板の前からそのまま社務所に案内されて、正裕と笹山は神主である藤田翁一郎(おういちろう)と対面する形で座し、改めて自己紹介を受けた。藤田は綺麗な正座を組み、厳かな威容をたたえており、正裕らは看板前で会ってからずっと緊張していた。藤田はそんな二人を察してか、慣れないところは大変だろうなど他愛もない世間話を始めた。いくばくか会話をし、正裕の肩の力も多少抜けた辺りで、藤田は穏やかに切り出した。

「それで、お祓いをしたいそうだが、その訳を聞かせてくれるかな」

藤田の、人の奥底を覗こうとする鋭く冷たい目に見据えられ、正裕はマウンドの上にいるときの緊張を思い出した。無意識に勝負所と捉えたせいか、無言のままどの様な話をすべきかに執心した。少し間が空く。そして、「おい」と小声で釘を刺す横に居た笹山の一言で、正裕は正気に返った。笹山は檸檬を皮ごと齧ったかのような苦い顔でこちらを見ていた。笹山と視線が交わると、笹山は「失礼だろ」と小声で怒った。藤田が落ち着きなさいとでも言いたげに篠山を見遣るのと同時に、正裕は笹山に一つ頷いて話し出した。

「一週間前になりますが…」

目を見開きこちらを驚き見る笹山を横目に、正対する藤田に蛙男の話をした。藤田は目を瞑り、時々頷きながら正裕の話を無言で聞いていた。

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