第3話

文字数 853文字

大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
こうすると少しばかり心が落ち着いて、少しばかり気分が上向く気がする。
視線を落として、先程運ばれてきたホットコーヒーのカップの縁を指先でなぞった。

「ボーッとしてどうしたの?」

そう声をかけられてハッとした。
今は1人じゃないんだった。

「ごめんなんでもないの。仕事終わりだからかな、」

そう言って笑う先には、見慣れた顔。
整っていて、人の良さそうな雰囲気。この長いまつ毛が好きだった。
ほんと、ムカつく

「体調はどうなの?またちゃんと食べてないんじゃない?」

目の前のムカつく男が低くて聞きなれた声で言ってきた

「食べてるよ、私は自炊しているし、それより貴方の方が食に関しては滅茶苦茶でしょう」

自分の心配をしたらと、言うのは辞めておいた。十分やな感じで返事をしたけど。

「まぁ、そうか。とはいえ、お互いに気をつけような...それより、今日話があってさ」

うん、と私は小さく返しながら
ぼんやりしていた頭を起こそうとコーヒーを一口飲んだ
彼は眉間に少し皺を寄せながらタバコに火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出してから、灰皿に灰を落としながら言いにくそうに口を開いた

「...彩子(さいこ)、俺とやり直してくれない?」

私は目眩がした、冗談じゃない。
久しぶりに会おうなんて言うから何かと思ったらそんなこと...
眉を八の字に下げて、私の顔を伺っているこの男を見ていたら、イライラを通り越して段々と笑えてきた

「何かと思ったら、変わらないのね。付き合いが長かったぶん、それはそれは情やらなんやら、それが家族に対する愛情に近いものかも。と思っていたし、何かあったのかと思って会ったのに...私は貴方とはもう付き合うことは無いよ。」

そういって、私は勢いよく立ち上がりそのまま店を出た。

そもそも会わなきゃいいってことは分かっている
頭の中でそれ以上のことが考えられなかった
玄関の鍵穴に鍵を挿しながら、「もうこんなの終わりにしなくちゃ」と頭のなかで唱えたあと、直視してこなかった自分の感情を見ないように、頭のなかのゴミ箱に捨てた
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み