第1話

文字数 681文字

家に向かって歩く。
私の住むアパートは少し不思議だ。駅からほど近く、郵便局の前にある。外観は鉄筋コンクリートのマンションに見えるけれど、中に入るとそこらじゅう板張りで、少しホコリっぽく通路は狭い。1階には管理室なるものがあり、そこに1人の魔女のような年齢不詳の女性が常駐している。彼女は世話好きで、時々煩わしくさえ思ってしまうのだけど、基本的にはいい人だ。

「おかえりなさい。畑でキャベツが沢山取れてね、おすそ分けに2玉置いておいたから...貴方、酷い顔よ、大丈夫なの?」

でたでた。この通り管理人さんは私を見つけて駆け寄りこうして話しかけてくる。そして私は大丈夫ではない。

「キャベツ2玉?1人で食べ切れるかな?」

ふっと笑ってそれじゃあと挨拶して、自分の部屋へ向かおうとしたらまた呼び止められた

「そういえば、お母様が来てたわよ」

そう管理人さんは静かに笑顔を作った
瞳の奥で心配しているのがわかる

私は母が苦手だった。
申し訳程度に笑顔だけつくって自分の部屋の扉をあけた。

間取りは1LDK。扉を開けると、手前に8畳間、奥に同じ広さのリビングダイニングがあり、窓は一つだけ。

東南向きだからか、午後になればあまり陽は差し込まない。
キッチン前に置いてあるテーブルの上に、言っていたキャベツが置いてあった。
そう、何故かみんな私の部屋に無断で入ってくるのだ。
ふと部屋の壁を見ると、ごめんなさいと書かれた紙があちこちに貼ってあった。よく見慣れた母の文字であった。わざわざこんなことしなくてもいいのに。
私はその日疲れていたので
何もせずにそのまま8畳間にあるベッドに沈みこんで深く深く眠った。
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