第1話

文字数 975文字

最近、よく分からない夢を見る。

__決断の時来たれり

__見て、熟考し、己を星の天秤に賭けよ

__それ即ち人類の真価なり。

か細い男の声はひたすらこの言葉を繰り返し唱えていた。

「マジで何なんだこの夢…。」

朝、絡まった髪を櫛で梳かしながら思う。
いつからだっただろう、あの訳の分からない夢を見るようになったのは。記憶の限りもうここ1週間は連続して同じ夢を見続けている。

__悪夢はストレスから来るものらしい。

高校の友達に夢について話すとそんな返事が返ってきたのを思い出す。人づてに聞いたものなので根拠こそないが、まぁ納得の行く理由だったので自分ではそうなのかと受け入れている。

「でも、悪夢って言うほどのものでもないしな…」

夢は男がひたすらに同じ言葉を繰り返して言い続けているだけのものだ。自分の思う悪夢とは随分かけ離れており、特段、恐怖で飛び起きてしまうようなものでも無い。

だが悪夢では無いからといっていい夢だとも思えない。寝ている間に発生する夢の時間、およそ2時間ほど。そのほとんどがあの言葉をひたすら聞き流している拷問のような時間だ。はっきりいって疲労感はいつもの数倍マシにのしかかっている。
このままではいつか寝るのも嫌になりそうで、そろそろ本気で対策を練るべきだと思った。

「…っよし、出来た。」

校則ギリギリの高さまで結んだポニーテールを鏡で確認して早足に洗面所を駆けていく。廊下に置いておいた学生鞄を回収し、ローファーを履いて、玄関前の鏡でもう一度自身の姿を確認した。

「スカートは巻いたし、髪も…、うん大丈夫そう!…っと、それじゃあ行ってきます!」

返事の帰ってこない居間に声をかけて扉を開けた。

___瞬間、目に入ったのは我が家の庭ではなく人影。

「…えっ?」

ドスッと左胸に衝撃が走る。嫌な予感がしてゆっくりとそこを確認すれば、白いセーラー服が真っ赤に染まり、金のナイフが自分の心臓を貫いていた。

「あっ、…な、…んで…。」

体から血と、力が抜けていく。肩にかけていたスクールバッグがずり落ちて、光希《みつき》は膝から崩れ落ちた。

「…い、や…。私、まだ…。」

死にたくない、死にたくない、生きたい。薄れゆく思考でまだ生きたいと願う。けれども現実は虚しく、光希の体はもう限界だった。
光希の掠れた瞳から涙が零れて、頬に密着した土を染める。

そうしてそのまま光希の体は死んだ。

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