第3話

文字数 1,236文字

「…ごめんね。」

剣に滴った血を宙で切って振り落とした。剣を鞘に収めて地面に倒れる化け物を見つめ眉を下げる。

「私も、死にたくないの。」

少女___西条光希がこの森に迷い込んだのはもう1週間も前だった。

最初の頃は酷く辛かった。死んだと思ったら生きていて、オマケに訳の分からない森にひとりぼっち、更には謎の化け物が襲ってくる始末。初日は逃げ回るので精一杯だった。

様子が変わったのは2日目。光希は剣を拾った。森で放置されるには惜しい、サビもなく綺麗な装飾が施された銀の剣。
本当は化け物を倒すつもりで手に取った訳ではなかった。自分を守る物がないも無いのが怖くて、護身用だと心に言い聞かせて剣を私物化した。

剣は不思議と手に馴染んで、それから柄を握ると恐怖心が消えていった。まるで剣に心を吸われるように自然と。

それだけじゃない、剣は光希に戦い方を教えてきた。勿論剣が喋る訳じゃないので、直接的に教えられたとかでは無い。何となく、頭の中で戦い方とはこうするのだ、と感じて。インプットされて、身体にダウンロードされた、みたいな。

「私に、戦えっていうの……?」

不安だった。戦うのか、自分。戦わなきゃいけないのか。丁度良く穴が空いた木に潜り込んで頭を抱えて、一晩中悩んだ。そうしてそれから

____覚悟を決めた。

まず髪を切った。
気に入っていたポニーテールは止めて剣でバッサリと切った。肩につかない程度の短さになった髪は軽く、動きやすくなった気がした。

次に魔物の前に立った。
逃げ回るのは止めて、剣をギュッと握り、足に力を込める。
低く唸る犬に似た化け物は口から鋭い牙を見せていた。剣を持ったおかげか恐怖心はなく、あるのは寂しさだけ。

「…私なら、勝てる。」

言い聞かせて大きく剣を振るう。
初めて振るった剣をはすぐに横へと避けられて、剣は勢いそのまま地面に叩きつけてしまった。
化け物は見た目通りに動きが早く、仕留めるにはいささかスピードが足りない。

「なら……!」

再び剣を構える。すると予想通り化け物は光希へと牙を向いた。化け物は大きく地面を蹴って空へ飛び、上から光希に襲いかかる。

光希はその隙に化け物の下へともぐりこんで、剣を上に向けた。スピードをつけて突っ込んで来ていた化け物は止まる事が出来ず、光希の剣が腹へと突き刺さる。突き刺さった剣をその場で振り落とすと、剣は化け物を切り裂いた。

頭上から情けない犬の悲鳴がきこえて、それから血の雨がバケツをひっくり返した様に頭にかかった。

「はぁ、はぁ…。わ、私。」

ゆっくりと後ろを振り返る。化け物は死んでいた。

当然だ。

光希は殺す気で挑んだのだから。剣はそれに応えて化け物を殺すだけの能力を示した。ただそれだけの事。

でも、化け物を倒したなのにも関わらず気持ちは晴れない。
湧いてきたのは罪悪感だ。

「あ、…私…。化け物を、殺して……。」

殺した。殺してしまった。その事実だけが頭をぐるぐると駆け巡る。被った血が余計にそれを実感させて、光希は急いで近くに合った池に飛び込んだ。





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