第6話 みがわり -5-

文字数 513文字

「康太君……。訊いてもいいかな。今、何年だか分かるかい?」

 康太は、何でそんなことを訊くんだろう、という顔をしつつも、はっきりと答えた。

「昭和六十二年」

「はは……。おじさんをからかっちゃいけないよ。昭和はとっくに終わって、もう平成になったじゃないか」

 ひとつ嘘を入れた。平成も終わっている。どういう反応をするか見るためだ。

「へいせい……? おじさん何言ってるの……? 今は昭和だよ。子供だってそれくらい知ってるよ」

 良夫の望んだ回答はしてもらえなかった。額に冷汗が浮かぶ。本当に、この子は「康太」なのか……? まさか、三十年も経って、タイムスリップしてきたとでもいうのか……。

 それと同時に、「康太」の言葉を思い出す。

――良夫くんが連れてかれちゃった。

 良夫が「康太」をすぐ認識できなかったように、「康太」にとっての

は自分ではない。彼の言う

は、まだ子供のはずだから。となると、連れていかれた「良夫くん」は誰なのか。

 良夫は嫌な予感がした。

 息子の悠馬が戻ってきていないこと。悠馬は、他人が見ても親子と気づくくらい、自分に生き写しで、子供の頃の良夫にそっくりであること。まさか、連れていかれた「良夫くん」は……。
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