第2話

文字数 1,070文字

そして、批判の矢面に立ったのが、若い夫吉長だった。
節姫は、愛する吉長が苦しむのがいてもたってもいられなかった。
「夫は、まだ20代の若年。 ここは私が支えねば。」
節姫は、夫を思うがあまり、度々政治にも口を出した。

参勤交代の際、江戸の茶席にて、冷やかしの声が響いた。
「おお、吉長公が来られたと言う事は、仙台公は欠席と見えるわ!」
「やめておけ、吉長に切られたらたまらんわ。 そしたらまた忠臣蔵か。」
周りはゲラゲラと笑い声をあげた。

非難を受けていたのは、安芸だけではなかった。
仙台も非難を受け、もはや両国は緊張状態だった。
見るに見かねた節姫の父、前田綱紀は吉長に切り出した。
「吉長。私は、親戚として恥ずかしいぞ! ここはお前から仙台公に頭を下げぬか。」
しかし吉長は渋った。
「しかし、義父上。 それでは先祖の長年の思いに背く事になります。」
そんな吉長に、前田綱紀は優しくなだめた。
「今は太平の世。 他にも和解した例はいくらでもある。 今がその時ではないか?」
吉長は、頷いたが家臣重臣の反発は酷かった。

吉長も、親戚の刺殺事件以来顔色が悪かったが、最近は特に酷かった。
節姫は、心配でならず、度々「藩主たるもの、その様な事でどうするのです!」と、励ましたつもりだった。
仙台公への和解の文を書けぬまま、頭を抱えている吉長を節姫は咎めた。

「あなたは大藩の主なのですぞ! あなたがそれでどうするのです! 我が加賀藩前田なら、例え何があろうとも正義を貫きますぞ!」

節姫の言葉に吉長は、仙台公への和解の文を書くと、家臣に届けさせた。

結果、仙台との和解は叶わなかった。
仙台公、伊達宗村は和解を試みたが、家臣重臣の反発甚だしく、
「あくまでこの伊達宗村が、知らぬと言ったと伝えよ。」
と、あくまで自分の責任と、粋な計らいをみせた。

誰しも今のこの状態で、和解がかなうとは思ってなかった。
互いにいさかい起こさぬ旨が、伝わる事。
それが狙いだった。

しかし、吉長の表情は暗かった。
吉長は、大三郎の部屋を訪れた。
若者になった大三郎は、やはりポカンと部屋の真ん中に座ったまま、空を見つめていた。
「大三郎、悲しいのか? 辛いのか? お前も寂しいな。」
すると、いつもはほとんど話さない大三郎が吉長を見つめて呟いた。
「殿、寂しいの?」

その言葉に吉長は、ついポロりとこぼした。
「誰も私の話など聞いてはくれぬ。 誰も私の思いなど分かりもせぬ 寂しい。 凍りつくほどに…」
吉長は、呟くとポロポロと涙を溢した。
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