第4話

文字数 923文字

節姫は、あまりに惨めでその場に立ち尽くしたまま、行列が行くのを見ていた。
脇から歓声が上がる。
「あれが、吉長公の新しいご側室か。 何と言う美しさか❗」

愛する夫は、節姫を置いたまま女と国に帰って行った。
節姫は、呆然とその光景を見ていたが、屋敷に戻ると文をしたため呟いた。

「愛してなければ側室等どうでも良いこと。 政治の口出しも愛しているがゆえ。」
「もはや、貴方の愛が得られぬなら、生きていても仕方ないこと。」
節姫は胸元から小刀を取り出すと、そのまま腹を貫いた。

「あなただけを愛す。」
白い着物が血で染まり、節姫はその場で息耐えた。

吉長は、道中で節姫の死を知ると、あわてて江戸に戻った。
そして節姫の変わり果てた姿を目にすると、抱き締めて泣き叫んだ。
「なぜ死ぬか! 私の事などただの政略結婚ではないか!」
「私を愛してくれたのか? ならば何故こんなに私を苦しめるか?
私は今、生涯一苦しんでおるのに‼」
吉長は、悲鳴をあげて泣き叫んだ。

『なんだ私が欲しかったのは、妻の愛だったか。 バカな私はこんなにも、妻を愛していようとは。』
しかし、気づいた時には節姫が息を吹き返す事はなかった。

姉の訃報を聞いて、義弟の前田吉徳が駆けつけた。
しかし、あまりの吉長の傷心に、前田吉徳はこう告げた。
「姉の訃報を悲しまないはずはない。しかし、お互い大藩の主。
いさかいを起こすつもりはない。 姉は病死だ。 お前に惚れて、恋の病で死んだのだ。」
幕府には、加賀藩前田吉徳が「節姫の死はあくまで病死」とした。

その後、吉長は二度と女は近づけず、ひたすら仕事に打ち込み、江戸の七賢者、安芸の名君と言われるほどの業績を残した。

しかし皮肉にも、吉長を救った前田吉徳は、家臣の裏切りで命を落とした。
吉長は、吉徳の娘を引き取ると、息子宗恒の妻にしたのだった。

節姫は死をもって、愛する吉長の愛を永遠に手に入れたのだ。
「あなただけを愛す」


*この後、加賀騒動(大槻伝蔵の物語)「冥土で会いましょう」と、その後、吉長の孫の浅野重晟の物語「私はこの花に止まる小さな虫になりたい」(縮景園物語)へと、続いていきます。
…が、それは後程。
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