第1話

文字数 1,554文字

「あなただけを愛す」(節姫物語、前編)
節姫は、加賀藩前田綱紀の娘。
節姫は、真実の愛に憧れていた。
節姫の父、前田綱紀はたった3才で藩主となり、若くして結婚した。
しかし、綱紀の妻はたった18で短い生涯を閉じるが、綱紀は側室をもうける事もなく、生涯死んだ妻だけを愛した。

「私も、生涯たった一人を愛したい。その人の為だけに生きていきたい。」
節姫は、思い描いた。

節姫の婚約者は、安芸の国、浅野綱長の嫡男吉長だった。
吉長は節姫より若く、少々不安もあったが安芸の国に輿入れして、その不安も消えた。
「そなたが節姫か、息子は若年ゆえ頼りないかもしれぬが、歳上の妻とは頼りにしておるぞ。」
義理父綱長の横に座っている吉長は、確かに若年ではあったが、知性と品格を帯びた数え17才の大変な美少年だった。

「ああ、何と言う賢くも凛々しきお姿か。 しかし夫は若年。私が支えねば。」

節姫は、瞬く間に恋に落ちると、一心にそう思った。

しかし、節姫は輿入れしてからすぐに不振を覚えた。
何故か、大藩の嫡男にも関わらず、吉長には小性がいなかった。
節姫は家臣に問いかけると、家臣は部が悪そうに答えた 
「若い者がいたら、殿の目の毒になりますから…」
これには節姫は怒った。
「私が年だから、殿は満足できぬと申すか❗ 大名たるもの、小性の一人もおらぬは恥ぞ!」
節姫は答えた。

しかし、節姫にさらに不安が訪れた。
息子仙次郎(宗恒)が産まれたが、その後の世継ぎが出来なかった。
これには皆が騒ぎ始めた。
「42万石の大名が、世継ぎ一人とは心もとない。 節姫様はお年。
側室等もうけなければ。」
これに節姫は怒った。
「夫婦とは、寄り添い合うもの。余計な女はいらぬわ!」
節姫は、頑として側室を許さなかった。

だが、節姫の美貌が衰える一方で、年下の若い夫吉長の色気は増す一方で、吉長が廊下を通れば若い女官が黄色い声をあげた。
「吉長公は、お世継ぎもお一人。見初められたら何とよいことか。」

節姫は、愛する夫に他の女が寄り付かぬように、藩内の美男を集め、吉長の側に侍らせた。
「女に取られるぐらいなら、男に取られた方がましだ!」
節姫は、愛する夫が愛しいあまり、ずっと側を離れなかった。

しかしある日、吉長の分家が刺殺事件を起こした。
分家は、お家断絶。 処刑された。
義理父藩主綱長の心労は甚だしかった。
国を守るため、「あくまで関わり持たぬ」としたが、諸国からは「卑怯者」と罵られた。
そこに、あの仇討ち事件が起こった。
赤穂浪士は処刑され、さらに綱長への批判が強まった。
そんな中、義理父綱長は、幼い子供を連れてきた。

「この子は大石蔵之介の息子、大三郎だ。 少々心を痛めておる。
この子は、私が引き取る。 皆、優しくしてやってくれ。」
この言葉に、家臣はみな怒った。
「これほど批判があるなかで、大石の息子を引き取るとは、殿はよほど手柄を自分の物にしたいか。」
「こんな幼い子供を重臣扱いとは、下につく者の気持ちにもなって欲しいわ!」
皆、口々に陰口をこぼした。

分家の刺殺事件以来、義理父綱長の心労は酷く、大三郎を引き取ってからは床に付く事が多かった綱長は、ある日、吉長と節姫を呼ぶと話始めた。
「私は、もう長くはないだろう。 どうか大三郎に優しくしてやってくれ。 全てはこの私の責任だ。 分家の事件とて、戦国から我が藩と対立している仙台の事がなかったとは言い切れぬ。 だが、今は太平の世。 いさかいは好まぬ。 例え暗君と呼ばれようとも、私はいさかいは許せなかったのだ。 せめて救えなかった命の変わりに、どうか大三郎だけは救ってやりたかったのだ。」
そう言い残すと、藩主浅野綱長はこの世を去った。
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