出会い

文字数 2,636文字



続のスマホで太義から連絡が来たのは、続の時点で小グループの後、家に着いてから一時間半を超えて、そろそろ寝る準備をしようかどうか悩み始めた頃だった。



 



発信者: 朝切 太義



メッセージ: 代々守?ちょっと時間ある?



 



何だろう、と思った続。奇遇にも男として生まれた自分に他人から、しかも女性から先に連絡が来るのは大変珍しい事であった故、ひとまずは返事を送って見た。



 



発信者: 代々守 続



メッセージ:
朝切? どうかした?



 



太義は普段、教会でいつも機嫌悪そうな顔で口を開けたら文句ばかりすることで有名だった続から直ぐ返事が来たことを見て、次の日曜日に教会で何か変な噂でも出ないのか、一瞬そう思ってた。恐らく、彼女が続に連絡をする事も、もしかしたら何かの賭けかもしれない。女子の世界は男子のそのものとは違って、一回の誤りという骨に大げさという肉が雪の塊のように付いて噂になり、あっという間に広がるのは時間の問題であるからだ。だが、駄目でも元々だという思いで、太義はほんの少し時間を取って返信を送った。



 



時間がある時いつか会おう。いつがいい?



 



何?それがメッセージを読んで最初に頭の中に入った続の反応だった。全ての想像力を集めて太義が誰か、何の為にこんな事が起きたのか考え始めた。続にとって朝切太義という名の女の子は教会でいつも通り、あるいは定期的に集まる同年輩会で一回位顔を見せてからそれさえあまり来ない、ごく普通の存在であった。罰ゲームであるだろうと思ったが、また外の可能性を考え始めた。今時のように女性が男性より社会的に優れた社会に、自分のことをただ笑い目にされようとでもするのか、という事、若しくはもっと普遍的に何か自分が持っているある技術とか知識等が欲しくて連絡することも有るだろうという所まで考えが着き、続はきっとそうだろうと思い、確かめようとした。



 



突然何の事?



 



少し考えれば当たり前の疑問だ。同じ年の女の子がいきなり男の子に連絡をする事は、割と社会的な地位を考えても実に珍しい事だ。太義は女子なら誰もかもがそのように、密やかに全てを見る目で自分が知っていた続のことを思い出して見た。先ず偶々あった聖書知識クイズで堂々と優勝をしてた彼、賛美の時間ではいつも機嫌悪そうな顔で後ろに座っていた、反社会的とでも言える彼から何か興味を持たせるものを引き出さなければならない。彼の態度から推測してその話題を出すより今すぐ自分の楽ではないその気持ちを解かせるべきのジレンマの中でちょい悩んだ後、一番適当に思われるような返事をした。



 



少し、相談したいことが有って。。



 



相談したいことか、続にとって二人で相談することと言ったら断じて不愉快なことの中でも上位圏内に入る事であった。一般的に誰か「ちょっと話そう」と言って二人きりになってたら、その「ちょっとの話」というものが自分の心を閉じったようなその態度や賛美の時間に一緒に歌わないことを指摘したり、牧師先生の説教話は聞くことで、批判する事ではない等、碌な事ないものばかりであったからだ。よって、もっとも簡単で意味も確実であり、人類歴史上一番短い手紙に書いていたメッセージを送った。



 





 



続は太義から何かまだ話があるか待った。まだ彼女が話題を話しかけなかった以上、ここでもっと話を進むことは難しい。太義は続の返事を読んで少し悩んだ。自ら先に連絡をかけた以上、自分の用は自分で明らかなければならない。 それ程の礼儀は太義も十分に知っている。直ぐ返事が来れる時間帯に連絡することが出来たのが幸か不幸か、という思いをしながら太義は用心深く打ち明ける気持ちで用件を言った。



 



信仰についてちょっと話したい事が有ってね。時間できる時あったらいつ?



 



なるほど、異端伝道者かもしれない可能性が生じた、と思い持つことになった続。最近しばらく活動がなかったかな、と思ったら機会になって歯をむき出したな、という思いが一番先に頭の中で出てきた反応であった。ちょうど色気を布教に使うとも言われている異端についての情報を聞いてから忘れる頃にもなった。しかし、断定するのは早い。まだ、彼女が本当に信仰について続と相談したいことが有るという可能性が残っている。くだらない事でもあるかもしれないし、居るかどうか分からないが、彼氏との信仰的な葛藤であるかもしれない。後者の場合、中に挟んで本気で相談に乗った人だけ馬鹿にされてしまう事が多いので、そうだったらすぐ断ろうという思いと同時に、彼が人と話す時の信念、初めて人と会う時は全てから離れて人と人との出会いにする態度を覚えながら返事をした。一般的に人が誰かに会おうとすることは、礼儀でも二回も言わない。女子が男子に、それもその二回を同じ夜に話すのはあまりよくある事ではない為だ。



 



いつがいい?俺は平日午後なら何時でも構わん。



 



正直、簡単そうな返事かもしれないが腹を探る意味も含めている。ちょっと傾いた目て見たら、話しを持ち出した者が切り上げろ、という意図も込めている。後者の意図は気づかぬまま、太義はちょい考え、できる時間帯を話しながら最後にコーヒーもおごる、と書こうと思ったが、一応消した後送った。



 



水曜の午後2時どう? 教会で会おうよ。



 



水曜日か、時間的にはできるが。続はそう考えながら一回試そうと思った。朝切太義、どんな者なんだお前は。何の用が有って俺に向かって信仰の話をしようと言ってるのか。万が一異端であれば、どんなにらしくない教会のあり様であっても、二度と俺が通ってる教会で目の前も現れる事なさせるよう叩き潰そう、という思いをしながら、続はそうしよう、という返事をして自分の仕事に入った。



 



代々守からそうしよう、という短い返事を貰った太義は思った。教会で見ていた人たちの中でせめても信仰に真剣な態度で向き合おうとしていた人が代々守であった。牧師先生達にも相談を求めたが先生たちの都合というものもあるし、大学部を卒業したばかりの青年部の端くれのような彼女の立場にとって割と会うことが大変である方々なので、それでも直ぐ会えるような人である代々守にかけて見た連絡。取り敢えず約束は取ったから収穫は有るとも言えるだろう、という思いをしながら彼女は枕に就いた。
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登場人物紹介

「”信じること”を信じる、って何?」


朝切太義(あさぎり・たいぎ)


何処にも居るような、21歳の女の子。

最近の教会の姿に何か違和感を感じ、代々守続に相談をし始める。

「信じる、という事は、抗う事なんだ。」


代々守続(よよもり・つづき)


何時も機嫌悪そうな顔で突っ込み、イメージがあまり良くない21歳の男の子。

そんな彼に、朝切太義が相談を掛けて来るが。。

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