第5話
文字数 2,660文字
アトラス
おまけ②「見物人」
おまけ②【見物人】
「ねえ」
「なんです」
「そっちの海浪さんってさ、やっぱり怖いの?」
「・・・怖くはないですね。まあ、時々怖いですけど。でもいつも眠そうにしてます」
「へー、そうなんだ」
「銀魔さんは怖いんですか?」
「怖いわよ!まあ、私なんかは女だからなのか、そこまで怖くはないと思うけど。やっぱり敵が男とかだと、銀魔さん超怖いし。ていうのもね、昼寝を邪魔されるのが嫌いだから。寝起きは不機嫌なのよ」
「そうなんですか。師匠は大体、俺が寝るときにはまだ起きてて、起きる頃にも起きてますから」
「すごい。銀魔さんにちょっと見習ってほしいわ」
「けど、師匠はワイルドすぎるところがあって、時々ついていけなくなります」
「ワイルドすぎるって?」
「魚を釣って食べたり、獣を狩って食べるのはまあ良いとして、釣るという行為をせず、自ら川に潜って捕まえるときもありますし、飛んでいる鳥を素手で捕まえたりもしますね」
「動体視力良いんだ」
「そこですか」
「銀魔さんはいつもダラダラしてるのに、腹筋が割れててちょっとムカついたわ」
「何ですかそれ。そういえば、銀魔さんの変装っていうんですか?あれってどういう仕組みなんです?」
「それは私達にも分からないのよねー。私たちだって変装は得意なんだけど、銀魔さんほど別人になることははっきり言って無理だし」
「骨が収縮でもするんですかね」
「さー?色々聞いてみたけど、なんか銀魔さんも良くわからないって言ってたわ。まあ、本当は知ってるけど言わないだけかもしれないけどね。それより、蒼真くんってなんか飛闇に似てるわね」
「そうですか?」
「うん。雰囲気かな?なんかクールなところとか似てる気がするなー」
「飛闇さんは、いつ頃から銀魔さんと一緒にいるんですか?」
「それはねー、私と同じなの。私と飛闇はもともと同じ城に仕えてたの。けど、その城が滅んじゃってね。そんなとき、銀魔さんに拾われたの」
「そうだったんですか」
「あ、また飛闇ってば天馬くんを追いかけまわしてる」
「あれは天馬が悪いんです。森で見つけた毒蟲をくっつけたから」
「天馬くん、泣きながら助けを求めてるけど、行かなくて良いの?」
「いいんです。自業自得ですから。こういうときに助けちゃうとあいつ図に乗るから、ちゃんと制裁は加えないと」
「手厳しいのね」
「一種の躾です」
「あーあ。けど悔しいなー。こんなにも自分がまだ未熟だったなんて」
「それは俺達も同じです。まだまだ修行が足らなかった」
「まさか自分の手で銀魔さんを襲うなんて思ってもいなかったわ。ショック。ショックすぎてお腹空いてきた」
「珍しい症状ですね。あ、天馬が飛闇さんを振りきった」
「すごい。あの飛闇の追跡から逃れられるなんて」
「野生ですから、あいつは。本能でしか動けないんです」
「蒼真くんと天馬くんは、どっちが先に弟子入りしたの?」
「弟子入りと言うか、拾われただけですけど、天馬の方が先ですね。歳は同じですけど」
「あ、そうなんだ。けど仲良さそうだよね。見ててなんかほっこりするもん」
「仲良くないです。海浪さんがいなければ、天馬なんて相手にしてませんから」
「そう?天馬くん弟みたいで可愛いと思うけどなー。まあ、両手にムカデを持って近づいて欲しくはないけど」
「飛闇さん硬直してます」
「唯一苦手なのよね、ムカデ。だんご虫は平気なのに、ムカデは受け入れられないんですって。ただ見る分には構わないらしいんだけど、今みたいに肌に触れようものなら、多分天馬くんには天罰が下るわね」
「下ればいいんですよ、あいつには」
「天馬くんは苦手な蟲とかいないの?」
「今のところ見たことはありませんね。・・・あ」
「え?なになに?」
「・・・確か、師匠が天馬には最大の弱点があるとか言っていたようだ・・・」
「弱点?」
「はい。師匠が天馬を大人しくさせようとして、色んな昆虫とか蟲とか鳥とかを持ってきたときなんですけど、その中で天馬が反応したのが」
「したのが?」
「・・・・・・蚊」
「蚊?」
「蚊です。それは師匠がちゃんと捕まえたものでした
「すご。蚊を捕まえたの?」
「ええ。天馬、小さい頃から蚊避けなんて知らずに生きてきたので、蚊にさされることが多かったらしいんです。それでいて、痒くなっていつも強くかきむしるから、後で薬を塗る時にいつも痛くて、それが忘れられないみたいで」
「成程ね。確かにあれは痛いわ」
「今でも、夏場に蚊の音が聞こえただけで、天馬は一睡もできません。いつもなら叩き起こしても起きないのに」
「可哀そうに。手作りの蟲避けあげようか?」
「いえ。それも天馬には良い薬です」
「師弟揃って天馬くんには厳しいのね」
「師匠の言う事も聞かずに走り回って、ハチの巣を落として追われたこともありましたし、蛇の巣に興味本意で手を突っ込んで、飲まれそうになってたこともありました」
「すごい経歴の持ち主ね」
「あいつといると、大変なんです」
「・・・そうね。でも、楽しそう」
「・・・まあ、退屈はしませんね」
「蒼真―――――――――!!!!!」
「呼んでるわよ」
「五月蠅いな」
「助けてーーーーーーーーー!!!」
蒼真と風雅の方へと、マッハで走ってくる天馬の後ろからは、何やら黒い物体が。
良く見てみると、それらは人をも噛むという蟻の団体だった。
「ちょっと!!!なんでこっち来るの!?」
「あれが天馬です」
すうっと蒼真が腰から剣を抜くと、それと同時に風雅もクナイを取り出した。
そして、少し離れたところにいた飛闇も深くため息を吐くと、手裏剣を取り出す。
そして、一瞬――――。
3人の協力によって、天馬は無事、蟻の群体から逃げ切ることが出来た。
「蒼真!お疲れ!」
「・・・・・・」
キラキラと顔を輝かせながら、親指をグッと立ててウインクをしてきた天馬に、蒼真はその親指を掴んで思いきり捻った。
「ごめんなさい」
「分かればいいんだ。そして学習してくれるともっと助かる」
「ごめんなさい」
しゅん、と大人しく正座で反省している天馬に、蒼真は説教していた。
その姿を見て、飛闇と風雅は同じことを思っていた。
「(大変そうだな)」
「天馬、そろそろ顔をあげろ。反省したならもういいから・・・天馬?」
「・・・・・・」
「天馬どうした?」
「・・・・・・テントウムシ発見!!」
蒼真のげんこつによって、天馬は撃沈した。