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文字数 695文字

 アッ、またこの病室から運ばれる人がいる。
死んだのか、集中治療室に運ばれるのか、判断出来なかった。自分もいつ運ばれるのだ。
 国は伝染ると言う理由で、家族との面会を最低限に制限している。
来ても感染症防護服を着ての面会だ。
SFだなと、その格好に笑いが起きた。
 私はもう諦めているのかも知れない。
いや、諦めてはならないのだ。
 私は窓際にいた。寝かされた場所が、たまたま窓際だったのだ。
体を起こしても良いのだが。体力を失わない為大抵の者が寝ている。
 兎に角、眠くなる病気なのだ。

 私は、この世の見納めにと外を見ていた。
ビルしか見えない。ここは7階か8階だったと思う。家族も1週間も面会に来ない。
死ぬまで来ないのかも知れない。
収入が無くなるのだから当然か。
働かなければならないだろう。
これ程人が減ると、社会は回らないだろうな、そんな事を思った。
 ビルの電気もまばらにしか点いていない。
人の動きも少ない。大抵、女性が働いている様だ。ならば家の嫁も娘も仕事には困らないな。
そんな事を思った。

 息子は大丈夫なのだろうか?
心配を掛けない為に、何も知らせてこない。
それに当然、男の家族は面会出来ないのだ。
院内感染を恐れての事だ。
家族に最後に会いたいと言う気持ちと、病気を移してはと言う気持が拮抗していた。
複雑な心境だ。皆で一緒に死ねば恐くないかもなどと思ってしまう。
人としての尊厳も何も、あったものではない。
私は何故か笑っていた。
声を出さずに、顔を変えずに笑っていた。

 ふと、外が騒がしかった。7階辺りにいるのだ。ましてや街は、ゴーストタウンの様に車の往来も少ないのに。
煩い!
つんざく様な音が、空から聞こえた。
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