第6話 食われるお誕生日会豚さん

文字数 1,266文字

 Xはほらね、と心の中で呟いた。思った通り、Φからの返事が早かったのだ。まさしく準備してたと言わんばかりに、すぐさまXは2人に連絡をとった。


 その週の土曜、Xは交差点前にある駅の地上出口付近で待ち合わせをしていた。思った通りの曇りだ、Xはやれやれと肩をすくめた。面白いことに2人で会うときはなぜか天気にならない。かといって雨にもならないから文句は言ったことはなかった。

「X」後ろから声がかかった。

 振り返ると背の低い金髪ストレート童顔が満面の笑みで立っていた。
「あ、N」Xの顔の緊張がほころんだ。
「全然変わってないね」
「Xはすごく変わったね。ほんと別人みたい」
「そうかなあ。そうならよく見つけられたね」
「うん、なんとなくね」
「なんとなくか」Xはつぶやいた。
「にしてもほんとに肌が白くてきめ細やかで子どもみたいな顔してるんだから。外国の子ども誘拐してるみたい」
「あはは」Nは子どものように口を大きく開けて笑った。
「性別すら見分けつかなそう」
「また言った。それ昔Xに何回も言われて飽き飽きしてたんだよね」
「あ、そうだっけ?ごめんね。知り合いじゃなきゃあまりにも区別つかないから」
 Xは少し申しわけなさそうな顔をした。
「いいよ」Nは楽しそうだ。
「それで何でここにしたの?」
「おいしいとんかつ屋がいくつもあってね。そこに行こうと思う」
「久しぶりに会ったのにとんかつなんだ。Xらしいや」
「とんかつ屋で座り込みしてでも長話してやるんだから」

 とんかつ屋に向かっている間、XはNの姿を眺めた。真っ白なポンチョのようなものを着ていてより一層子ども感が増している。足も黄色の長靴のようなものを履いている。雨も降らないのに。髪は肩までかからないぐらいの金髪だ。生まれつき髪は色が抜けていると昔Nから直接聞いたことがあった。
 本当に子どもみたいだと思って惹き付けられてしばらく眺めていたが、ほっぺを膨らませ怒ったような顔をしたNの振り返りを見てXは我に返った。

 これからとんかつ屋に着いた2人は並びながら数年のブランクの話をした。今日会うまで何をやっていたのか、どんな人と会ったのかを語った。都会に出て初めて一人で生活を始めたためNはかなり戸惑ったという。電気と水道を使うのに自分で業者に連絡しなければいけないことを知らなかったNは、3日後大家に叫ばれるまでそのことを知らなかったらしい。冬に引越したNはそれまで毛布にくるまって寒さを凌いだ。楽しかったよ、とNは和気あいあいと話す。やっぱり変わってないな、XはNを再認識した。

 席に通され、すぐにとんかつを出された2人は、すぐさまとんかつにがっついた。Xは派手に装飾したお誕生日会お豚さんを飲みこんですぐさまお腹が空いていたのか、と聞いた。Nは首を横に振りながらがっついている。 

「ねえ、今日話したかったことなんだけどさ。私とNとΦとZでさ。一緒にまた住まない?」
 XはNの表情を注視しながら尋ねた。
 Nは顔を上げず、ぶたさんを飲み込まず口をいっぱいにしながらゴモゴモとした声で、いいよお、とだけ発した。
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