第3話

文字数 753文字

 玄関先には中型段ボールが7箱と化粧台が運び出されるの待っていた。
 「本当に出て行くんだな」
 「うーん。ごめんね、家賃一人じゃ少し高いよね?ほら、敷金の半分私も出したじゃん?あれで穴埋めしてもらうって事でダメ?」
 「それでいいよ。俺もいつまでこの家にいるか、わかんないし」
 「そう、よかった。少し心配してたんだよね。独身のうちは少しリッチな家に住みたいって言ったの私だったからさ。トオルに全額払わせるのも悪いなって思ってたの。二ヶ月分くらいはあったと思うからさ、その間になんとかできるよね?」
 「多分な」
 チャイムが鳴った。「はーい」自分の家のように返事するマリコ、インターホンのモニターには知らない男が写っていた。
 「今開けるからちょっと待ってね」
 手伝いに来たのは男だった。何かの業者の人ではなさそうだ。マリコに男兄弟はいない。男友達が手伝い来ても不思議ではないが、俺が昔紹介されたシンジでもサトシでもなかった。
 「あっごめんね。変なお願いしちゃって」
 「いいよ、どうぜ暇だったし」
 男は俺を見ようとしない。普通、他人の家に来たのなら家主に挨拶の一つでもあって然るべきだろうが、その男はまるで俺がいないかのような振る舞いをしている。いやそう見られようと装っていると俺は直感的に感じた。
 「この段ボールとあの化粧台だけなんだけど、あれはちょっと重いからトオルと一緒に」
 男はマリコの指示を遮るように動き出し、事も無げに化粧台を持ち上げて出て行った。
 「ねえ」
 「うん?何」
 「あの人、誰」
 「…教えない」
 マリコは無表情で答えた。
 「食器とかはどうする?」
 「そうそう。忘れるとこだった」
 「あと傘とか玄関の小物類も」
 「うん」
 マリコは小さめの段ボールと新聞紙の束を持って来た。つくづく準備がいい女だ。
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