第3話

文字数 725文字

 お盆を少し過ぎた頃、翔太は休日にコンクール用の写真を撮りに出かけた。焼け付く日差しの中、公園や神社、川べり、線路沿いなどいつもの撮影スポットを回ったものの思うような画は取れず、あきらめて帰宅するといつものようにアパート内でブラブラしてるレナに会った。
「今日はお花無いよ」聞かれる前に翔太は言った。
「それって、カメラ?」レナは花の事には触れず、翔太が肩からぶら下げていたカメラを指さして尋ねた。
「そうだよ」
「そうだ、写真撮ってあげようか。現像してあげるから、お花の代わりにお母さんに持って行ってあげたら」
 黙って思案顔を浮かべるレナ。相変わらず反応は薄いものの、特に嫌そうなそぶりを見せるわけでもない。「はい、そこに座って」幼稚園の遠足など、師匠一人で手が回らない時によくこんなカットを押さえたものだ。そんなことを思い出しながら翔太は「はいチーズ、もう一枚」といってシャッターを切る
 数日後、夜勤の前に写真を厚手の用紙に印刷し、「レナ様へ」と付箋を貼った紙袋を自分の部屋のドアノブにかけておいた。翌朝部屋に戻ってみると袋は無くなっていた。数日後、ノートの切れ端のような手紙がドアに挟まっていた。広げてみると「しゃしん、ありがとおございました」というメッセージが小さな小学生らしい字でと書かれていた。

 勤め先の工場が繁忙期を迎え、しばらく忙しい時期が続いた。翔太は率先して残業を引き受けたこともあり、工場に泊まり込む日も増えた。気づけばしばらくレナとも顔を合わせていなかった。夏の暑さも峠を越し、夜明け前のひんやりとした空気に懐かしさを感じながら翔太がアパートに帰るとまた手紙がドアに挟まっていた。
「もうお花はいりません。今までありがとおございました」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み