第17話

文字数 1,028文字

 午後のひと時を楽しんでいると、父さんが勢いよく飛び込んできた。
「ルイ、お前の仲間がくるぞ。住民が増えそうだ。さぁ、早く来てくれ」
 父さんのあまりの勢いに圧倒されながらも、母さんは言った。
「さぁ、ルイ、早く行ってらっしゃい」
 車に乗りながら聞いた。
「どこへ行くの?」
「ついてくればわかるさ。ルイも同じように月にたどり着いたのさ。月の住民が少しずつ増えていくのが嬉しくてな。日本からの友人だ」
 十分ほどで、海岸みたいな場所に着いた。
「ここは?」
「ここは人工の海だ。砂浜と海。海は人工ゲルでできた海水もどきだ。どうだ、見た目は海だろう?」
「そうだね、海岸っぽいな」
「待ってろよ、あと三分くらいだ」
 これから何が始まるのかと遠くをボーッと見ていた。すると上空から黒い点がだんだんと大きくなってきて、タイムカプセルみたいな球体のものが衝撃吸収ゲル上に落下した。
「父さん、何あれ?」
「驚いただろう?あれが日本を出発した打ち上げカプセルさ。中には日本人が乗っているはずだ。そう、ルイのように両親に会いたいと願う、地球に住む子供たちがな。自分の気持ちに気づいた子供たちを救う。慈善事業ってやつだな」
「慈善事業?……うん、まぁ、そうとも言えるかな」
 五十メートルほど離れたところに落下したカプセルを迎えに、父さんはゲルの海を歩いていった。
ルイも父さんを追った。
 そして扉を開けると中から中年の男性と、抱えられた女性が出てきた。女性は気を失っているようだ。
 そうか、自分もこんなふうに迎えられたのだと知った。
「すぐに順応ステーションへ行こう」
 ルイは少ない荷物を手伝って、そして、父さんとおじさんは娘さんを抱えて車に乗り、街のステーションへ急いだ。
「お疲れ様でした。東京はどうでしたか?」
「相変わらずですよ。皆、一生懸命に働いています。バーチャルの世界もいたって平和そのものでしたな」
ルイは思い切って聞いてみた。
「娘さんは家族に会いたいと?」
「ええ、娘は治療院へ送られる予定でした。このタイミングを逃したら一生会うことはできないと思い、私の意思で会いに行きました。この子の母親は一年前に重い病気で亡くなりました。でも仮想空間で会うことができたため、こちらの世界に来てくれるだろうかと、正直、とても不安でした。でも今は、アタックして良かったと思っています。気持ちをそのまま話せば、思いは伝わると信じていました。私の血をひいた本当の娘ですから」
 おじさんはとても嬉しそうだった。
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