第7話

文字数 541文字

「そうですね……遠い遠い昔……記憶の奥底に何か引っかかるもの……なんて表現すればいいのかなーーそう、思い起こしてはいけない沈めた何かーーその何かが常に心の中にあるような気がしています。それが何なのかは、AIに聞いてみたことは、今まで一度もありません。何か聞いてはいけない問いのように感じていたからです。これで答えになっているでしょうか」
「そうですか」
 鈴木さんは、怖い表情をしながらも、目には微かに涙を浮かべているようだった。
「何か変なことを言ったでしょうか」
「あっ……いいえ。私の目に狂いはなかったと感じて少し嬉しくなってしまいました」
 鈴木さんはしっかりした口調でこう言った。
「田中ルイくん、それは間違いなく幼いころ抱いた、両親に会いたいという感情だと思います。いつの時代も、人間らしい生きた血が流れているのです。それはAIには判断できない感情を伴います。私は、人間本来の生きる力を信じてこの年まで生きてきました。それがどういう意味か頭のいい君なら、理解できますよね。そして初めて会った時から気づいていたのではありませんか」
 鈴木さんは、深呼吸をしてからゆっくりと続けた。
「あなたのチップを一時的に停止しました。それはあなたの口から本当の感情のままの思いを聞きたかったからです」
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