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文字数 860文字

 そんなある日、歩道を歩いていると。道路に飛び出し、震える子猫を見付けた。
今にも車に轢かれそうだった。
俺は思わず、車が猛スピードで突っ込んでくるのに車道に出て、子猫を抱えると身体で守って車に跳ねられてしまった。
 路肩に倒れる俺の腕から、子猫が出てきて、心配そうに俺の顔を舐めた。
俺のこの世の見納めは、その可愛い顔だった。

 ✳✳✳✳

目を覚めると、病室などと言うハッピーエンドてはなかった。
 だが俺は大理石の、ほのかに暖かい床に寝ていた。
起き上がると。派手な紺と銀のストライプの、背広を着たパーマの男が何やらパンフレットを持ってニヤニヤ見ていた。
 何だろう?夢かな?
俺は、まだ死んでいないのかな、と思うと。
その男は、

「お目覚めですか?鮎川清登様」

と言った。
 俺のフルネームだ。誰だ?と思い、

「どなたでしょうか?これは脱出ゲームか何かですか?」

と聞いた。そんな感じだったのだ。
 すると彼は、

「私、地獄の案内係のアオキ(青鬼)と申します」

と答えた。
 えっ?何ともファンキーな地獄に落ちたもんだ。そうか子猫を助けたからか?と思えば、

「違います」

と俺の心を読んで、アオキさんは言った。

「あのぅ、心読めるなら言葉で話さなくても・・・」

「便宜上で御座います」

「はぁ・・・」

「さて、あなたの思った地獄とは若干の差異がありました事でしょうが。これは神様から人間の誤解を解けとの、御命令と亡者の方々からの苦情による、変革で御座います」

「へぇ・・・」

「では、ご説明致します。地獄と言えば、現世で悪い事をした者が苦しみを与えられるだけの世界と思っていらっしゃいますが。
実は地獄は、罪を償い己の悪事を反省する更生施設なので御座います。
確かに苦しみで改心と言うのは、何とも原始的とは存じますが。
これが最も効果的なので御座います。
既に何人、いや何千人、何億人もの人が地獄で修行を終えて。天国へと旅立たれました。
ですが、その事についての一切の説明が現世で行われていない、と言う事で。
私がこうして、新人亡者様をエスコートする、段取りとなった訳で御座います」
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