四話 将棋大会 その二

文字数 2,482文字

 「あたいはろくろ首のみなみ、覚えといくれ」
  
 二回戦の相手はろくろ首を名乗る女性だった。
 赤い着物に、薄く上品に施された化粧、そして何より見た目は普通の人間だった。

 「どうしたんだい?そんなに見つめて」
 「あっ、いや、思っていたろくろ首と違っていたので」
 「へえ、あんたが想像していたろくろ首って・・・」

 そう言って、みなみさんの首がみるみる伸びていく。
 そして、伸びた首を蛇が獲物を捕らえるかのように、僕の身体の周りを囲み耳元で、

 「こんなかい?」

 そう囁かれた時、身体がぞわぞわした。
 
 「はは、あんた耳元弱いんだね」
 「ちょっと、みなみさん実巳さんに変なことしないでください」
 
 可夢偉がまたしても注意してくれて、みなみさんは「はいはい」と言いながら首を元の長さに戻した。

 「それじゃあ、始めようか」

 そうして、ようやっと対局が始まった。
 結果は、圧勝とまでいかずとも余裕を残して僕が勝利した。

 「あんた、強いね」
 「いや、まあボード系には自信があるので」
 「そうかい、ちょいと見くびってたよ。許しておくれ」

 そう謝られ、悪い気はせず、

 「いえ、またいつかやりましょう」
 「うーん、良い男だね。二人きりだったら・・・」
 「みなみさん!」

 そう僕の後ろで、人より早く対戦を終えた可夢偉が目を光らせる。みなみさんは「冗談、冗談」と言いながら、去っていた。
 僕は無事、三回戦に進むことが出来た。
 
 「さて、次は準決勝。勝ち残った4人は席についてください」

 ぽっちゃと言われる小鬼の合図で、席に着くと対面にさっきのぬらりひょんが座った。

 「先ほどは名乗っておらんじゃったな。儂はしがない、みなからはしがさんなどと呼ばれとる」
 「よろしくお願いします、しがさん」

 2回戦の相手とは違い、挨拶を交わすとすぐに対局が始まった。
 始まりは膠着だった。両者どちらも相手の手を伺い、状況は動かず。
 先に動いたのは、しがさんの方だった。
 そこからは、劣勢をひっくり返したり、ひっくり返されたりと攻防一体。
 どちらも、駒の取り合い。
 そして、時は過ぎ、決着は僕が最後詰めて勝つことが出来た。
 
 「ありがとうございました」

 試合が終わり、一息つく。
 周りでは、妖怪たちが何か騒いでいた。

 「よもや、可夢偉殿以外に負けることになるとはな」
 「えっ」
 「なあ実巳殿今度またリベンジさせてくれ」
 「はい、またいつでもやりましょう」

 しがさんは悔しそうな顔をしながら、どこか嬉しそうに去っていた。
 次はとうとう決勝戦、相手は可夢偉だった。

 「先ほどの試合すごかったです」
 「ありがとう」

 対面に座る可夢偉に褒められはしたものの、しがさんとの試合は本当にぎりぎりだった。
 それに、さたけさんに聞いた話ではしがさんは可夢偉に一度も将棋で勝ったことが無いと言う。
 
 「決勝戦、実巳さん対可夢偉様。よーい始め」

 試合が始まり、また膠着状態から始まるかと思えば、可夢偉は最初から仕掛けてきた。
 安易な手、そう思って盤面を返し攻勢に出ようとすると、すぐに盤面を返された。
 そこからは一方的に攻められた。
 反撃の隙を伺いながら、耐えても耐えても隙が出てこない。
 そのまま、試合は可夢偉のペースで進んでいき、一時間ほど経過したところで決着がついた。
 
 「優勝は可夢偉様。無敗記録更新です」

 そうぽっちゃが発表すると、疲れがどっと出てきた。
 この一時間弱、ずっと対局に集中していたためようやっと落ち着くとこができる。

 「実巳さん、お疲れ様です」

 水を可夢偉から受けとる。
 可夢偉は、僕と違ってまだ余裕が残っていた。

 「すごいな、何もできなかった」
 「いえ、実巳さんこそ、そう言いながら一時間も耐えていたじゃないですか」
 「耐えるのだけはね」

 そう言って二人で笑う。
 本当に強かった。

 「ちなみに優勝したら、何がもらえたの?」
 
 僕は可夢偉に、優勝賞品について聞く。

 「これです」

 出されたのは、日常でよく見るお菓子だった。
 
 「ポッテトチップス?」
 「はい」

 僕はてっきり、もっとすごいものだと思っていたのだが、意外と普通のもので驚いた。

 「実巳さんからしたら、日常でよく目にするものかもしれませんが、妖怪たちは表に出ることは滅多にありません。ですので、お菓子でもかなり貴重なものなんです」
 
 そう説明され、どこか納得した。
 可夢偉は妖怪たちに向き直り、
 
「それでは、みなさん。今日は集まっていただきありがとうございました。また、来週ありますので、その時またよろしくお願いします」

 可夢偉がそう言うと、妖怪たちは各々玄関だったり、窓からだったりと家を去っていた。
 その時に、今日対戦した、しがさん、みなみさん、さたけさん、に声をかけられた。

 「実巳殿、またやろう」
 「じゃあ、実巳君また」
 「実巳さん、次は相撲で対決しましょう」

 僕は去っていく各々に手を振った。

 「じゃあ、実巳さん。そろそろ」

 僕と可夢偉は二階の和室に上がった。
 
 「今日は勝手なことして、本当にすみません」

 可夢偉が鏡の前で謝ってきた。

 「妖怪のみなさん、今日しか集まれなかったので」
 「ううん、気にしてないよ。それに、楽しかった」
 「そう言ってもらえると助かります」
 「じゃあ」

 僕は別れを告げて、鏡の中に入った。
 鏡を抜けると、そこはさっきと変わらない和室だった。だが、違うのは少し静かなところ。
 階段を降り、一階の和室のふすまを開ける。
 そこには誰もおらず、寝袋が敷かれているだけだった。
 スマホを確認すると、もう朝の4時だった。
 僕はもう一度、寝袋に入ると今度こそ眠りに着いた。



「実巳さん、実巳さん。もう昼ですよ」

 その呼び声で目が覚めた。
 声の方を向くと、白い着物を着て仮面をつけた女性が正座していた。

 「可夢偉?」
 「はい、可夢偉です」
 「ん、この匂い」

 リビングの方から、美味しそうなご飯の匂いがする。

 「顔を洗ってきてください。リビングで待ってますので」

 僕は状況がつかめず、しばらく閉められたふすまを見つめていた。
 
 
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