三話 将棋大会 その一

文字数 2,121文字

「ここに妖怪が」

 一階のふすまを前にして、息を呑む。
 どうやら、この家の構造は表と言われる、僕の住む世界の家と同じようで先ほどまで自分が寝ていた和室に今妖怪が集まっているという。
 確かに耳を立てれば、部屋の中からひそひそ話が聞こえてくる。
 きっとさっき見た小鬼と同じく可愛いものだらけだと疑わず、可夢偉さん、いや可夢偉の許可を経てふすまを開ける。
 開くと同時にクラッカーが鳴り、光の中に入って行く。
 その光の先には・・・。

 「・・・そんな」
 『ようこそ』
 
 そう声高々に声を揃えたのは、決して可愛い妖怪などではなかった。
 まず先に目に入ったのは緑の身体に甲羅、そしてチャームポイントに頭に皿を乗せた河童、次に目に入ったのは後頭部が異常に膨れ上がったぬらりひょん、その他にも様々な、本でも見たことないような妖怪も含め、僕を歓迎してくれていた。
 歓迎してくれているのは嬉しいし、ある意味期待通りでもあるのだが、僕にはあまりに空想と現実の乖離が大きかった。
 脳が現実を受け入れられず、一瞬のうちにシャットアウトしたのだ。

 「だ、大丈夫ですか」

 可夢偉が横から支えてくれて、どうにか立て直したがどうにも心は癒しを求めていた。
 その時、丁度僕の足元に先ほどの小鬼が走ってきて、ズボンの裾を掴んで心配そうに、

 「大丈夫でありますか?」

 僕はそこでさらに心を打ち抜かれ、出そうになる鼻血を必死で抑えた。

 「大丈夫です」
 「良かった」

 そう言って、また走り去っていく姿に心の底から感謝の念を向け、手を合わせて拝んだ。

 「ちょ、ちょっと実巳さん鼻血」

 可夢偉が横からティッシュで血を拭いてくれて、どうにか血を止めることは出来た。

 「くっははは」

 そう高らかに笑い声を上げる妖怪が一人、笑い声を上げたのは後頭部が異常に膨らんだぬらりひょんだった。
 それにあっけを取られていると、ぬらりひょんが姿を消し、気づけば目の前に立って肩に手を置かれていた。

 「お主面白いな。名は?」
 「えっ、あ、漆和良(うるしわら)実巳です」
 「良い名じゃ、これからよろしく頼む」
 「しがさん、まだ実巳さんはまだ慣れていないのですから、急に消えないでください」
 
 そう可夢偉が横から注意してくれる。
 僕は確かに妖怪を甘く見ていたわけではないが、こう目の当たりするとやはり少し怖い。
 だけど、僕は同時にわくわくしていた、これから始まる未知との交流に。

 「それじゃあ、改めて自己紹介良いですか?」
 「うん」

 しがさんと呼ばれたぬらりひょんが元の場所に戻ったあと、改めて妖怪たちに向き直る。

 「初めまして、僕は漆和良実巳と言います。この世界に来たのは今回が初めてです。どうぞよろしくお願いします」

 自己紹介をして、頭を下げると妖怪たちから拍手だったり、喝さいを貰った。どうやら、自己紹介は上手く行ったらしい。
 
 「じゃあ、それではぽっちゃ、お願いします」

 そう可夢偉さんが言うと、部屋の電気が消えた。
 そして、スッポトライトのように一部に光が当たる。
 そこには、先ほどの小鬼がマイクを持って台の上に立っていた。

 「みなさん、今回も集まっていただきありがとうございます。実巳さんとの交流を深めるためにも、毎回恒例ボードゲーム大会を開幕します。ボードゲームの内容は事前にくじを引いており、くじで決まったのはこれ」
 
 スポットライトが四か所に当てられ、いつ準備したのか将棋盤が置かれていた。

 「今回は将棋で戦ってもらいます。ルールはトーナメント戦、優勝した方には可夢偉様から贈り物がありますのでみなさん頑張ってください」

 そこで電気が着き、これまたいつのまにやら壁に紙が貼られていた。
 そこにはトーナメント表が書かれており、僕の名前もそこに入っていた。
 表の端っこ、どうやら最初に戦うようだ。

 「実巳さんこちらに」

 可夢偉に連れられ、将棋盤の前に座らされる。
 すると対面に緑色の身体と甲羅、頭の上に皿を乗せた河童が座った。
 
 「初めまして、僕はさたけ。好きなものは相撲です。よろしくお願いします」

 そう河童が勢いよく頭を下げた時、勢い余って将棋盤に頭を打ち、おでこを抑えながら転げ回った。

 「だ、大丈夫ですか?」
 「大丈夫、それじゃやりますか」

 声をかけるとすぐに何もなかったかのように、席に着きいそいそと将棋の駒を並べ始めた。
 河童の身長は丁度小学三、四年生ぐらいだったため上の方から頭の皿が見えたのだが、少しひび割れていた。
 それを指摘しようとしたら、丁度並び終え「始めましょう」と闘志あふれる目で言われたので、伝える暇もなく対局が始まった。
 
 「そ、そんな」

 結果で言うと圧勝だった。
 こちら側は一度も王手されず、なんならほとんど駒も取られることもなく試合は終わった。
 
 「中々やりますね」

 そう何もないような表情で言っていたが、頭の皿はバキバキに割れていた。
 対局中に気づいたのだが、どうやら頭の皿はさたけさんの心の状態が現れるらしい。
 局面が怪しくなるごとにひび割れ、駒を一つ取ると何もないような顔をしていたが、見るからにひびが修復されていた。
 そうして僕は無事、二回戦に進むことになった。
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