第1話 救貧『 じゃが ゆ 』。 (シーン・3 アニメシン、現わる!)

文字数 1,573文字

「…は? アニメ…神? 様…???」

 きょどりながら園枝が振り向くと。

 さっきまで、ひとり黙って給茶スペースを兼ねたミニキッチンで。
 何やらカタコトと、良い匂いと音をさせていた…
 専務が。

「…お~う。」

 なんて、いつもの調子で…

(じゃっかん、嬉しそうな… ふざけた感じで…)
 水虫予防だとかいう、いつもの愛用のサンダルスリッパをぺたぺたさせながら…
 現われた。

「わ~れこそは、ひと呼んで、愛と正義の救貧救世主!
 アニメシンであ~る…♪」

 なんて、歌うように語っちゃいながら…

 皆太の眼のまえに、湯気のたつ小どんぶりを…
 ゴトン!と置いた。

「まぁ、喰え。」

「…な、なんですか? これ…???????」

 湯気のたつ… 椀のなかには…

 でろ~ん…として
 どろ~ん…として
 ぶわ~ん…とした…??
 謎の… 物体が…

「…す、スライムの腐乱死体…????」

 皆太の反応を見守っていた面々が、それぞれ一斉に、がたがたと笑い崩れた。

「失礼な。」
 ひとり憮然とした(ふりを装った)のは、専務である…
 本人は伊達だと言い張っているがじつは老眼鏡なのではという噂のある洒落た銀縁の眼鏡の縁をわざとらしく押し上げながら、
「きさま、もしや救貧緊急糧食の王道、『 じゃがゆ 』を知らんのか…???」
「…じゃ、じゃが…ゆ…????」
「まぁ、『ジャガユ』というのは俺の命名だがな。」
 ふんぞりかえって、とても偉そうである。(いや、専務だから偉いんだけど…)

「まぁ、冷める前に、喰え。」
「…はぁ…」
 おそるおそる、どんぶりと、添えられていたスプーンを手にとった皆太…
「…あ。でも、なんか、い~匂いする~…☆☆」
「とりあえず、ハチミツ味だ」

 一口、すすりこんだら。
 あとはもう…
 がぶがぶ、がふがふ…!!

「あつっ! あちっ! …うめぇ~ッ!!」

「そうかそうか…」
「胃に… からっぽの胃袋に… 沁みわたります~ッ!!!♡」
「そうだろ~、そうだろ~♪」

 かなり白髪が目立ってきた一本縛りの長髪の専務は。
 それなりに嬉しそうに、目を細めながら。
 善人ぶりっこな表情は、すっとひそめて。
 傍らに置いたタブレットの画面を片手でちょいちょいと指し示しながら。
 うしろのモブたちに素早く囁いた。

「…おい、資料係。このへんのレシピ適当にパクッて、今日中にフリップ何枚か描いとけ。
https://cookpad.com/recipe/4847178
https://cookpad.com/search/%E3%81%8F%E3%81%9A%E6%B9%AF%20%E7%89%87%E6%A0%97%E7%B2%89
https://ameblo.jp/farmers-keiko/entry-11473969429.html
 …ただし、『ジャガ粉』の量は、普通の倍な☆」
「…はぃ?」
「歴史的かつ一般的には、カタクリ粉とか葛湯とか言う。
 現在のところ、植物のカタクリもクズも全く使われていない…
 正しい原料名は、われらがポッカリ島の誇る名産!
『ジャガいも粉』なのだ!」
「…あぁ。カタクリ粉のことですか…」
「だぁから! カタクリは使ってないんだから、ジャガいも粉!と呼ぶのが正しい!」
「なるほど…」

 なんて言ってる間に、皆太はあっという間に!
 椀の中味を、たいらげた…
「…あ… うまかった… です…」
「足らんだろう?」
「あ、はい!」
「そうだろ~そうだろ~…♪」
 嬉しそう~に、追加で置かれる、おかわりの2杯目…

「…あれ、コーヒーの匂いする…」
「さっきのはハチミツと練乳入りで。
 同じレシピで、インスタントコーヒーと黒糖入りな♪」

「…あ、あたしも食べたくなってきた… 作ろっと♡」
「あたしも~」
「あたしも~ッ!」
 レシピを知ってるらしい女性社員たちが、きゃわきゃわと給湯室へと向かった。


(続く)。







(続く。)
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登場人物紹介

主人公。園枝 皆太(そのえ・かいた)。23歳。


新人アニメーター。貧乏。


調理経験皆無。というか、苦手意識のみMAX最大。

農家出身なので、野菜や家畜の絵は上手い。


 ===


なぜ料理ができないかと言うと、みごとな女系の大家族で育ち、

曾祖母・祖母・祖母姉妹・伯母・母・叔母・姉・従姉…総勢9人による

壮絶なる『台所の覇権争い』に割って入るスキが無かった…ため。


『電気ポットに水を入れて湯を沸かしてカップラーメンにお湯を注ぐ』のと、

『タイムセール半額弁当や特売日に買いだめた冷凍食品をレンジで適温にチンする』

のが、進学して一人暮らしを始めてから身につけた【調理スキル】。


雨後樹 美浪(うごき・みろう)。年齢不詳。

自称『天才絵師にして天才シロウト料理人』!

他称『アニメ界の飯の神』=『アニメシン』!様。

(一部に『兄メシヤ様!』の尊称も…)

(人間です。)


 ===


かけだしの新人動画屋時代に自炊にはまり、のち、

食い倒れアニメ『いやしんぼ!』の原動画で一躍有名に。

『りある包丁さばきで仕事を獲った!』伝説の持ち主。


杉田 仁成(すぎた・じんせい)。年齢詐称。

ポン島国ポウキョウ都心の某有名アニメ会社に雨後樹と同期入社。

待遇面で揉めて組合などつくって紆余曲折した結果、

色々あって独立。

出身地のポックル島で動画制作会社を立ち上げ、今に至る。


愛妻は調理師。雨後樹とは家族ぐるみのつきあい。


田代 巧(たしろ・たくみ)。25歳。

皆太の2年前に入社した先輩。


バイクや自動車など、メカ関係の絵が得意。

実家は中古自動車の整備販売工場。


三ツ俣 和紙(みつまた・かずし)。中堅アニメーター。

趣味でいまどき『切り絵アニメ』を自主制作している、根っからの『創職系』。

動かないが『頭脳労働した!』と称して地味に食べ歩き情報が豊富な食いしん坊。

比較的無口。あまり出番はない。


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