第1話

文字数 590文字

日記の記載
 いやあ、ムカシはよかった。母ちゃんが五右衛門風呂、焚いてくれてさ。三人兄弟で浸かったもんだ。
「母ちゃん、もっと熱くして!」なんて興奮して叫んでさ。
 兄ちゃんたちは「もうむりだ、熱い、おまえ本気で言ってんのか!」なんて。
 仲のわるい兄弟、っていうかオレは末っ子オレだけ親父がちがう、あの五右衛門風呂での一回コッキリの一瞬だけ、兄弟の親愛の温ったかさが感じられて、オレはうれしくてハシャいでた。
 長男によくイジメられたもんだ。もっとやさしくしてくれても、よかったのにな。
 小学生ったって、学校でいろいろ問題を抱えてるもんだ。だから誰か包容力のある男の存在をオレは必要としてたんだけどな。

 まあ長男だって中学1年、次男は小6、オレが小1ってわけで。
 母子家庭で親父の役をつとめられるやつなんて、家にいなかった。長男にその役を求めるなんて、酷なこった。でもオレには必要だったんだ……

 母ちゃんが、父ちゃん役も二役で、一所懸命やってくれてたけどな。

 

現場状況
 出刃包丁が刺さった死体が転がり、縊れた死体、焼焦げた死体があり、階段はおびただしい血でヌルッとすべる。
 五右衛門風呂は液化した遺体に風呂水が茶色で、細菌のしわざか液体にささやかな流動がある。骨片と髪が、浮いていた。

 最近に起きた殺人と、年数を隔てた風呂場の惨状との、少なくとも二段階の惨劇があったことが明らかである。
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