第3話

文字数 537文字

 巡査が目覚めたのは正午過ぎであり、女が鼻歌まじりにシャワーを浴び終え、からだにタオルをまいて目玉焼きをつくりはじめた頃だった。
「いい匂いだな」巡査はベッドから身をよじって彼女に云った。
「ただの目玉焼きよ」女はふり向かずにターナーをフライパンと卵のあいだに差し入れてこすりながらこたえた。
「うーん、目覚めからさわやかな食欲がわく」彼はベッドをおりるとパンツをはいて女にちかづいた。
 うしろからギュッと抱きしめて、うなじに唇をはわせる。
 女は彼のミゾオチへのエルボーで応じ、ぶ厚い激熱のフライパンで10回ほど彼の頭部を殴打した。
 目玉焼きは飛んで床を汚し、わずかな油と破れてあふれた卵黄は巡査のすべらかで迅速な流血と合流した。卵の白身の存在感が、うめく巡査よりもなによりも、女の気分に障ってくるのだった……

 巡査は鋭い頭痛と麻痺した無感覚の同居する身体感覚および認知力の中にあって、「怪人の花粉化したあの粉をオレが女の目に擦りつけたのがこの事件を引き起こしたのか」と考えたが、その彼の視界には、充血した眼球に現れるような赤く枝分かれする線が張り巡らされ、彼の思考を途絶させた。「ああ」と彼は畏怖の嘆息をもらした。視界は真っ暗になった。
 そしてすぐに、その暗闇も消えてしまった。
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