終幕

文字数 461文字

 一度、彼に言ったことがあった。

貰冊店(セチェクチョム)の娘なんて、王子様の正妃に相応(ふさわ)しくないですよ』
 と。
 そうしたら、またも斜め上から切り返されてしまった。
『そのことだけか? 俺の求婚を受けてもらえないのは』
 と。
『それだけが理由なら、心配要らない。建前上は平民だって世子嬪(セジャビン)にも立てる。どうしても正妃として認められなければ、名目上は側室になるけど、その代わり生涯、正妃は(めと)らないから』――

 これを、たとえば想い寄せるあの人が王子の地位にあったとして、その彼に言われた台詞なら、心底ときめいたのに。
 そう思ってしまう辺り、やはりスリョンは彼を男としては見られないのだろう。見られれば、想い寄せてくれる彼の妻にいっそなれるのなら、どんなに楽になれるか知れない。

(……あたしだけじゃないわね)

 クスリ、と小さく苦笑が漏れる。
 すでに人妻になってしまったソニェを想い続けるヒョヌも、その彼の想いも知らずに彩雲君(チェウングン)を想い続けるソニェも、そして、それをまた知らないままスリョンに求婚し続ける彩雲君も、ままならぬ気持ちを抱えたまま、きっと――。

【了】
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登場人物紹介

安樹鈴《アン・スリョン》(16)


(一応)主人公。性別・女。血液型・A。身長・155cm、体重43kg。

貰冊店《セチェクチョム》〔貸本屋〕を営む家の娘。趣味は読書。好奇心旺盛で、何にでも興味を示す。

いずれ、作家兼貰冊店を営んで、生涯独身で過ごすのが望み(想う人と結ばれないのが分かってるから)。

その為、武術も身に着けるべく男装して訓錬院《フルリョヌォン》に潜り込み、ずっと見取り稽古をしていた。彩雲君《チェウングン》とは、ここで出会った。以来親しくしており、彩雲君の伝で訓錬院へ堂々と出入りができるようになった。

そのまた伝で、最近は訓錬院や捕盗庁《ポドチョン》で茶母《タモ》の仕事もしている。

スリョンのほうは、彩雲君を友人としてしか見ていない。

近所に住んでいるヒョヌとは幼馴染みで、ずっと片想いしている。

柳亨雨《リュ・ヒョヌ》(19)


スリョンが想いを寄せる男性。血液型・A。身長・170cm、体重70kg。

中流両班で、近々書堂《ソダン》の講師になる。

当代世子《セジャ》・李水環《イ・スファン》(19)とは学友。揀擇《カンテク》前の下見的な、王室の交流会で出会った世子嬪《セジャビン》候補のソニェに一目惚れし、今も想い続けている。

スファンには、いずれ自分の片腕として出仕して欲しいと言われているが……。

諸仙惠《チェ・ソニェ》(17)


ヒョヌが想いを寄せる女性。血液型・O。身長・160cm、体重・50kg。

当代世子嬪。

当代王・李天環《イ・チョンファン》の王子・彩雲君に片想いしていたが、その異母兄である世子・スファンの正妃揀擇に出ることになってしまい、世子嬪に冊封されてしまう。

彩雲君《チェウングン》(18)


本名・李影環《イ・ヨンファン》。字《あざな》は埼潭《キダム》。

血液型・B。身長・165cm、体重・55kg。

当代王の第三王子。母は宋嬪《ソンビン》・全潤瑛《チョン・ユニョン》(38)。

ある時、フラリと顔を出した訓錬院で出会ったスリョンと親しくなる。最初は男だと思っていたのが少女だと分かり、やがて想いを寄せるようになる。

けれど、片想いであることも承知している。

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