序幕
文字数 496文字
それが、あまりにも唐突で、且つ日常の延長だったものだから、申し込まれた当の
「……正気ですか?」
思わずこう返してしまったスリョンを、誰も責められないだろう。相手が、この国の第三王子でさえなければ。
ただ、当の第三王子・
「……言われると思った」
「だったらわざわざ口に出さないでくださいよ」
同じように肩先を上下させると、スリョンは座り込んでいた石段の上から腰を上げた。
馬の尻尾のように、頭頂部へ結い上げた漆黒の髪が、彼女の動きに従ってヒラリと跳ねる。
「内容は本気なんだけどな」
続いて腰を上げる彩雲君に、スリョンは
その先にいる青年は、いかにも王族と言った品位のある端正な顔立ちを、少しだけ傷ついたように曇らせている。
「大体、あたしに対する求婚も何度目ですか? そう何度も回数重ねられたら、却って真実味が失せますけど」
「本気だって言ってるだろ」
「想う方がおります、って申し上げてます」
それで話を打ち切るように、スリョンはきびすを返した。