まだまだ、ヤバイことに!?
文字数 2,693文字
そんなこんな、世間の騒々しさとはまったく無縁だと言わんばかりに、ガブことクィアと国王が時を過ごす離宮は、まるで時が止まったかのように平和な日々が続いていた。
2018/01/13 04:31
お兄様、このような生活をしていて、退屈ではありませんか?
2018/01/13 04:34
そんなことがあるものか!私には、国を支配するとか、他国の領土を侵略しようとか、そういったことに興味はない。
いったい、そんなことをして何が楽しいんだ?自分のよくわからない見栄のために、自分の心の平穏を、どうして売り渡す必要があるのか!私は、こうしている時が一番幸せなんだ。
2018/01/13 04:35
エーキレサスは元来政務には身が入らない様子で、それがクィアが来てからいっそう助長されたらしい。贅沢な気晴らしとか、召使いを連れ立って出かける狩りなどに、時間を費やしていた。
そして毎日夕方になると離宮にやってきて、クィアとひとときを過ごすのだ。
2018/01/13 04:41
・・・しかし、国のことを考えれば、そういう生活ばかりもしていられないのではありませんか?国王の権威は絶大なのですから、お兄様がしっかりしなくては、この国もままならないと思います。
2018/01/13 04:45
・・・いや、そうだ。クィアは優しくても、そういうことはしっかりと考えていた。いや・・・しかし、いまは私を悩ませないでくれ。
まったく、現実はいやなことばかりだ!臣下も形では私を敬うが、その腹の中では私をバカにしているのが丸見えなんだ!
しかしそいつらもまた、自分の利益しか考えないバカ共だという!
・・・まったく、イヤになる!・・・クィア、君はそういう連中には染まらないでくれ。
2018/01/13 04:47
・・・わかりました。出過ぎました・・・しかし、一つよろしいでしょうか・・・?
信徒の・・・キリスト教徒の迫害のことなのです。あなたの気持ちもわかります・・・しかし、どうしてそのようなことをする必要があるのでしょうか?そのようなことは、やさしいお兄様にはそぐわないことです。いますぐにでも、止めてもらえないでしょうか?
2018/01/13 05:15
もちろん、クィアはこのことを会ってすぐにでも言いたかった。だがある程度の信頼関係ができるまで、それを控えていたのだ。
しかしこの男の心は、それ以上にかたくなであった。
2018/01/13 15:07
・・・なんということを言うのだ!・・・どうして、クィアのニセモノに過ぎない君が、そんなことを言う権利があるというんだ!
君も教えてもらっているだろう!クィアは・・・クィアは「神」というものに殺された!私の母もキリスト教徒だった!・・・だが精神が病んで行くにつれて、狂信とも言える状態になった・・・そして・・・「クィアを閉じ込めることが神の意志である」と言って、クィアを監禁したんだ!
2018/01/13 15:16
「クィアは神に殺された」・・・それはまさしく、その意味であったのだった。
精神に異常をきたした彼らの母が、クィアを「悪魔の使い」だと信じて、彼女を閉じ込めたのだった・・・
2018/01/13 15:51
「神」というものが存在したのなら、なぜクィアは死ななければならなかったのだ!どうして、そんなことを許すんだ!・・・それどころか、まさに「神」は、罪もないクィアを殺した!
私は憎い・・・!そんなことをした「神」が!そんなことを信じている人間が!
・・・私は、そのような存在を許すことはできない!迫害して、そのような考え方を滅ぼさなければならないのだ!!
・・・そのためには、奴らの処刑も辞さない!
2018/01/13 15:55
・・・!そんな!
2018/01/14 20:23
黙っていてもらおうか。君はしょせん、クィアの代わりに過ぎないのだから・・・
2018/01/14 20:24
エーキレサスのクィアを見る目は、もう赤の他人を見る目だった。底知れぬ憎悪の情熱が、その目に宿っていた。そこでガブも、この事態の深刻さを痛感したのだった。
2018/01/13 16:06
(これは簡単にはいかないぞ・・・でも天使として、こういう人こそ救わなければならないぞ・・・)
2018/01/13 16:11
「神」という概念が、世の中に危害を加える・・・ある「神」を信じている人々は、この事実を避けたがる。しかしこれこそ、宗教が克服しなければならない人間の疑いではないのか・・・
だがガブはすでに、彼を説得しうるものを、その心の中に感じていたのだった。
2018/01/13 16:13
その頃、ミカは王都に移送されていた。郊外にある、いまは使われていない古い宮殿が、臨時の収容所となっていた。宮殿の周りには大勢の兵士が配置され、ネズミ一匹逃がさない構えだ。
重厚な門を通って通された部屋は、宮殿だった当時の華やかさは微塵もなく、壁紙がはがされたままのがらんとしたものだった。布が敷かれただけの硬いベッドと木の椅子があるだけだった。
2018/01/13 20:32
さすがのミカも堪えたのか、うなだれたままベッドにへたり込む。しかしその時、ミカのお腹が盛大に鳴った。
2018/01/13 20:56
ああ・・・お、おなかすいたぁ~・・・
2018/01/13 21:20
食事はちゃんと出ていたが当然粗末なもので、ミカにはとうてい足らないみたいだ。
とその時、壁からかすかに音がしたのに気づいた。どうやら、向こう側の人が叩いているみたいだ。
2018/01/13 21:23
もしかして、他に捕まった人?
2018/01/13 21:49
急いで壁に耳を当てる。声の主は大人の女性のようだ。
2018/01/13 21:49
・・・誰か来たの?ふふっ、大変ね。ここはあんまりいいゴハンは出てこないからね。
2018/01/13 21:47
ありゃ・・・初対面・・じゃなくて「初対音」で、お見苦しい、いやお聞き苦しいところを・・・あなたも、キリスト教徒として捕まったの?
2018/01/13 21:50
それじゃ、あなたも同じなのね。そう、私もキリスト教徒なのよ。私以外にも、まだ仲間はいっぱい居るわ。いまは、外での仕事にかり出されている人も多いけどね。大丈夫よ、みんな何とか無事だわ。
2018/01/13 21:53
そうなんだ!よかった!・・・って、声抑えなきゃ・・・えっと、私はミカ。いままでカタリナって人の教会にお世話になっていたの。そこには、子供たちがいっぱい暮らしてたから、もしかして知ってる子がいるんじゃないかな?
2018/01/13 23:04
カタリナって、あのコルディーカ村のカタリナさん!?そうだったら、そこにセバスティって男の子がいなかった?私は、あの子の母親なの。
2018/01/14 00:09
えっ!そうなんだ!もちろん知ってる!だいじょーぶ、元気だったよ!
2018/01/14 00:12
こらっ!何を騒いでいる!静かにしろ!
2018/01/14 00:14
あっ!ごめんなさーい!ちょっとキレーなお花畑を想像してたら、キモチいくなっちゃったのー!
2018/01/14 00:15
何かアブナイものを感じる弁明に、見張りの兵士も「ヤベー奴・・・」と思ったことだろう。
2018/01/14 00:18
ごめんなさい・・・静かにしなきゃね・・・でも、それを聞けてうれしいわ。よかった、無事で・・・大丈夫、すべてうまく行くわ。いまは信仰が試されているのよ。最後まであきらめなければ、きっと良いようになさってくれるわ。
2018/01/14 00:19
・・・そうだね。こうして出会えたのも、神様のおかげだよ。
2018/01/14 00:25
すると、外から足音が聞こえてきた。入り口の錠を外すと、数人の兵士が入ってきた。
2018/01/14 00:26
来い、取り調べだ。
2018/01/14 00:49
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