第7話

文字数 891文字

僕は気づけば、息を切らして走っていた。
あともうちょっとで、僕らの物語が始まる。
教室に着く。
僕は廊下を走りながら、そう考えていた。
だが、青木春は教室にはいなかった。
放課後だから絶望しかけた。
春は何処にもいなかった。 
"1つ"の場所を除いて。


君は…春はこの学校の屋上にいた。
すると、青木春は微笑んで僕に言った。
『待ってたよ。冬樹』
彼女の笑顔は段々崩れていった。
彼女は涙をポタポタ、と地面に落としながら言った。
『私…実はもう死んでるの』
僕は春を抱きしめた。
抱きしめて、抱きしめて、ただ抱きしめた。
彼女の嗚咽して、震える肩を優しくさすってやりながら。
抱きしめてやった。
彼女は僕に聞く。
『私にこうしてくれるのは私が大切だから?…それとも…別の理由があるの?冬樹…』
僕は君に言うんだ。
かつて、未来の君に言われたように。
『君が大切だからだよ。春』
そう言われた春は何かが吹っ切れたかのように泣き始めた。
涙が溢れていた。
まるで滝のようだった。
辛かったのだろう。
苦しかったのだろう。
でも…もう終わりだ。
だって、僕は君にこう言うんだ。
『これからは僕と幸せに生きよう。そして、僕に君の身体を生きた身体に戻すのを手伝わせてよ』
そして、君は…きっと… 幼稚園の時みたいに『   』してくれる。
きっと…いつもの…幼稚園の時から変わらない笑顔で…



何で存在しない記憶が溢れてる…?
…僕の頭で何が起きてるんだ……?
嘘だ。
幼稚園の時に僕と君は出会ってないはずだ。
何で幼稚園の時の僕と君の記憶が溢れてる!?
何で…何で…!
もしかして…
僕は…

忘れていたのか?

困惑している僕を見た春が僕に言う。
『ようやく…思い出してくれたんだね…冬樹…!良かった!良かったあ!冬樹ぃ!!』
春は笑いながら泣いていた。
それから、春は僕に真実を打ち明けてくれた。
『私ね…幼稚園の時に交通事故で死んじゃったんだ。貴方は記憶喪失だけで済んで…しかも私のことを思い出してくれて…本当に良かった!』
僕は…涙が止まらなくなった。
君の笑顔は綺麗だった。
泣き顔も全部。

そうか。
君は…
『私ね。君ともう一度恋をするために未来にやってきたの』
僕に会いに来てくれたんだね。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

石川冬樹。

青木春を救う為に違う過去にタイムリープした物語の主人公。


青木春。

主人公冬樹を救ってくれ、冬樹とただの友達ではなくなったヒロイン。彼女が姿を消したのは神隠しか…それとも?

謎の近所のおばさん。

主人公冬樹の正体に気づいた謎多き人物。

謎の少年。

8歳くらいの少年。物語のキーマンのように思えるが…果たして神隠しの元凶を知っているのだろうか?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み