第6話

文字数 689文字

夏の日。
苔の生えた古い民家の前でのこと。
苔の神はあれ以上、めぼしい話をしてくれなかった。
例えば、自分が何故苔の神であるか、とかいう話ぐらいだ。
いや、違うな。
違う。
それは違う。
最後に彼女がしてくれたあの話は違った。
最後の話は割れたスイカが元の形状へ戻るような衝撃だった。
夏は終わってなどいなかったんだ。
『過去は君の行動次第で変えられる。君達ならあの時の神にも負けず、幸せになれると信じているよ』
そう言うと、苔の神は笑みを溢した。
笑ってくれたんだ。
僕は空を見上げた。
入道雲が広がっていた。
−夏はまだ終わってなんかいない。
そう思った僕は視線を下に戻した。
すると、さっきまで笑ってくれていた苔の神の姿は何処にも無く、苔の生えた古い民家が目の前に広がるだけだった。

僕はいてもたってもいられなくなり、君の元へ向かった。
−そうだ。
夏は終わってなどいなかった。
蝉の五月蝿いけど何処か懐かしい鳴き声も。
暑い日にアイスを口の中で溶かす子供も。
カブトムシを公園で捕まえようとする少年も。
麦わら帽子とワンピースを身に着けて外を歩く少女も。
長くは生きられない蝉の儚さも。
そして…君だって。
青木春だって。
この目で見える全てが夏の日の儚い夢だ。
でも僕はこれを夢では終わらせない。
君と幸せになるんだ。
そのために僕は君に会いに行く。
君を幸せにするんだ。
そのために…



アオキハルヘ。
僕は君に好きだ。
そう伝えに行く。

1ヶ月の夢じゃ終わらせない。
ただの幼なじみじゃ終わらせない。
そして…
僕は。
初めて生きた君と幸せになる。
君はもう一度生きても良いんだ。
僕がそれを証明する。

これはその為の物語だ。

アオキハルヘ。
僕は君を救う。
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登場人物紹介

石川冬樹。

青木春を救う為に違う過去にタイムリープした物語の主人公。


青木春。

主人公冬樹を救ってくれ、冬樹とただの友達ではなくなったヒロイン。彼女が姿を消したのは神隠しか…それとも?

謎の近所のおばさん。

主人公冬樹の正体に気づいた謎多き人物。

謎の少年。

8歳くらいの少年。物語のキーマンのように思えるが…果たして神隠しの元凶を知っているのだろうか?

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