第8話

文字数 814文字

僕らは屋上で互いに涙を流しながら、互いに抱きしめ合っていた。
−春がこの時間軸よりさらに昔の過去からやって来た。
僕に会うために。
その事実だけで泣けてきたんだ。

でも一つだけ疑問点があった。
なら何故、僕がいた時間軸では高校時代に僕にこのことを打ち明けてくれなかった?
何故、僕とただの友達の域を出ない幼なじみだったのか?

随分時間が経った。
だから、僕は春に聞くことにした。
『春…聞きたいことがあるんだ』
『良いよ』
『今の春に聞いても分からないかもしれないけど、春は何で前僕がいた世界線では……僕が過去に戻らなかった世界線では…僕にこのことを話してくれなかったんだ?』
『それはね…私。一つの世界線の未来にしか行けないんだ…だから君が…冬樹が過去に戻ってくれた世界線を選んだの』
『うん…分かった。ありがとうね。それとなんだけど、どうやって春は大学で僕を助けてくれたのか教えて欲しい』
『良いよ。あれはね。あの時既に君が時の神に接触してたから今の冬樹が戻った世界線になったという判定になったんだ』
『判定?』
僕は尋ねる。
『うん。そうだよ。だから私はあの時、大学に現れて君を抱きしめてあげられたんだ』
『それじゃあ、春が元の世界線で僕の高校に転校生としてやって来た後は春はどうしてたんだ?』
『その記憶はね…八百万の神の幻の神の幻覚だよ。苔の神さんに教えてもらったんだ』

苔の神か。
あの人には本当にお世話になってるんだな。
僕も春も。


そんな事考えてから、春の顔を見た。
信じられなかった。
僕は思わず、春…って枯れそうな声で呼びかける。
春の身体は消えかかっていたんだ。

僕は泣きそうになりながら春の名を何度も叫んだ。
春は僕に言った。
『じゃあね。冬樹…君と出会えて本当に良かった』
泣きじゃくる僕を見て、春は最後に泣きそうになりながら言った。
『私…また冬樹と会いたいなあ…』

その言葉が春の最後の言葉だった。
その瞬間、春は泡となって消え、その泡が天に上がることはなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

石川冬樹。

青木春を救う為に違う過去にタイムリープした物語の主人公。


青木春。

主人公冬樹を救ってくれ、冬樹とただの友達ではなくなったヒロイン。彼女が姿を消したのは神隠しか…それとも?

謎の近所のおばさん。

主人公冬樹の正体に気づいた謎多き人物。

謎の少年。

8歳くらいの少年。物語のキーマンのように思えるが…果たして神隠しの元凶を知っているのだろうか?

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み