第8話 歳の差恋愛~運命の糸をたどって~

文字数 2,575文字

―世界が嫌いだ。憎しみを込めて世界を見ている。
ただ、あの人を見ていると、少し、世界がきれいに見える。

現実を見せるためにわたしの目を開けたがる。
地獄へ堕とそうとする。

もう、自分の体の感覚も感情もわからない。
ただ、むしゃくしゃして、
きれいな花を踏みつぶして、おなかの大きな猫の腹を蹴っ飛ばす―



こころは14歳の少女だ。
成績が良く、周りの人間がバカに見えた。
だから、誰とも関りを持たなかった。
みんな嫌いだった。大嫌い。
そしてなにより、自分が大、大、大嫌い。

夏休み、親に強制され中学生向けに大学で講義があり参加することになった。

こころは友だちと呼べる人はいなく、孤独な少女だった。
ただ、両親の言われた通り、其処にいるだけ。

講義にやってきたのは、40代のビジネスマンだった。
名前は、はやと。
はやとは、2,30人の中学生たちの前で、優秀な洞察力と頭脳明晰さを表した。
こころは、はやとの素晴らしい講義に惹かれた。
そして、はやとも、こころの、呑み込みのはやさと、少女ながら妖艶な美しさに惹かれてしまった。
講義は、毎週1日あり、計4回の講義だった。

こころは、はやとに釘付けになり、お昼の時間も
はやとに質問攻めにする。
そして、休みの日に、特別に授業をしてくれるようにこじつけた。

「世界は、うつくしい、ここの観光スポットは、特においしいものがあって・・・。」
「はやとは、こころに世界のうつくさを教えると、こころは不満げに言った。
「どうせ、最悪だよ。世界は嫌い。」
はやとは、困った顔をして、一日だけこころのために時間を作った。
近くの観光スポットを紹介することにした。

日帰りの旅は、こころに新たな視点を見せ、人生に希望と楽しさをもたらした。
ふたりは、手を強くつなぎ、口と口を合わせた。
ひぐらしが、強く鳴いた夏のことである。
しかし、こころの幸せはすぐ終わりを告げた。

はやとは、生徒に手を出す幼女癖や誘拐犯として、逮捕された。
こころはまだ理解できなかったが、
通報した親に対して、憎しみの目を強く思うようになった。
はやとは、有名なビジネスマンで、新聞の小さな記事になった。
小さな記事だが、彼の人生を崩すには十分だった。

こころは、はやとと一緒に、いたかった。
大人の世界を知りたかった。
ただ、それだけだ。
その深い思いが残った。

こころは、24歳になった。
大学を卒業し、一人暮らしを始めた。

通報した親の支配から逃れたと、こころは思った。
何の未練もなく、家から出た。
殺そうと思ったが、やることがあると決意していたので、
断念した。

古い記事を頼りに、こころは、はやとを探した。
もう一度、会いたい。
10年が過ぎようが、
ネットの記事には、顔にモザイクをかかったこころと、
はやとと、一緒にいるゆいいつの写真がある。
こころは、それを見ると、うっとりしてしまう。

はやとの名前は、犯罪行為で有名になってしまい、
名前を変えて生活しているとネットの掲示板には記載してあった。
探すことは難しいと思ったこころは、
はやとが働いていた会社に入社した。
普通なら入ることは難しいが、
こころは名門の大学出で難しくはなかった。

はやとの痕跡を見つける日々は2年の月日がたった。
会社のデータ履歴や知人や記事を頼りに徹底的に調べあげた。

女の執念である。

すると、彼は田舎にある誰でも働けるような工場で懸命に働いていた。
こころは、工場を見に行くと、はやとらしき人物を見つけた。

出会った時は40代だったので、すでに50代になっていた。
以前のような自信と成功を欠いてボロボロの作業服を着ており、
彼の変わり果てた姿に驚いた。

「許せない。」
こころは世間が嫌いだった。
手始めにはやとをクビにした会社の悪事を
リークし、徹底的に燃やした。
こころは、はやとと会う決心をし、
今度は彼を自分が支えることにした。


はやとは、50代になっていた。
捕まってから、普通の生活はできず、名前を変えて、生活をしている。
一瞬の過ちが、身を亡滅ぼした。
貢献し、実績を積み上げる時間は永遠だが、
世間は一回のミスも許さない。
はやとは、どうにか挽回しようと思っても、足枷がついているかのように
酒を飲んで我を忘れ、溺れていた。
「世界は最悪だ」と思うようになっていた。

はやとは今日も仕事をして帰宅する。
ボロいアパートの蛍光灯はチカチカと不規則に点滅しながら光っている。

安いビールをコンビニで買ってフラフラと家路に帰る。
薄暗い自宅前のドアに女が座っていた。
幽霊かと思って、ビール缶を地面に落としてしまった。
カンッ
その音で女はこっちを向いた。
髪の長い女
恐る恐る、女に話かける。


「誰だ!?」
幽霊ではない、ストーカーだ。


はやとは一瞬、そう思ったが自分に寄ってくる女はいないはずだと考えた。

しかし、どこかで見たことがある。
昔、教えていた、遊んでしまった生徒、こころを思い出した。

「こ、こころ?こころか?どうしてここに。」
こころは驚いた顔をして、恍惚な顔をした。
「ひさしぶり、探したよ。」
まずい。
はやとは危ない少女だと思っていた。
会った時も同じように思った。
しかし、はやとは、こころの持つ、妖艶的な魅力に、またしても誘惑された。
40代まではモテて女に困らなかったが、事件になってから会社をクビになり、
金のない犯罪歴のある男には嫌悪を向けらていた。
50代の男が、20代の女を抱ける機会はない。
「・・・俺のところにきて、もう後戻りは、できないんだぞ。」
はやとは、震えながらも強気で、かつての先生だった口調で言った。
こころは、にっこりとして話した。
「どこに行っても、さがしてあげるよ。」
こころは下を向いて、にっこりと笑う。
はやとの脳内では、危険であぶない、近づいてはいけない、
そう警鐘が何度も鳴った。強気に出ても、自分の手が震えているのが目に入った。
しかし、はやとには、もうどこにも生きる世界はなかったのである。
こころは、手を伸ばし、はやとの手を握った。
「私の手をとって。私の手を。はやとを、私が助けてあげる。」

きっと逃げても、どんなに逃げても、
彼女は俺を探して追ってくる。

はやとの体は怖さで震えた。
しかし、若い肌のうつくさを振り払う理由はない。

はやとはこころの手をとった。

ふたりは暗闇のドアの中へ消えて行った。
あの夏のように、ひどく、ひぐらしが鳴いていた。

こころが、はやとを殺すまで、あと100日・・・!
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