第9話 恋愛冒険~~甘い恋の冒険~

文字数 1,675文字

甘い匂いが町を包む。
ここは、町の洋菓子屋さんだ。
ピンクや白を基調とした、かわいらしいお店である。
お店の中では優雅でうつくしい音楽がゆっくりと流れている。
ショーケースにはさまざまケーキやお菓子が置かれてある。
来るお客様は、物珍しいものをたのしみにして、
はたまた、ケーキ職人の、はなこを目当てにして、やってくる。

はなこは町で最もおいしいお菓子を作ることで知られていた。
中学校を卒業して、職人になるため専門学校へ入った。
他界した祖母が経営していたお店を、再開させるためである。
お店には常連さまを含め、夕方には売り切れがでるほどの多くのお客様がおとづれる。
はなこは、お菓子作りを楽しんでいた。

そんなある日。けいたがやってきた。
「こんにちは。ここに有名な恋のチョコレイトはありますか?」
「恋のチョコレイトですか?有名ですけれど、この町の噂話で
どんなものか、わからないんです。」
「なら、レシピを探すので、作っていただけませんか?」
「私がですか?」
「そう、町の人にしか作れないという噂ですので。」

けいたは町の伝説のお菓子、「恋のチョコレイト」を求めてやってきた。
これは、昔、町で有名だった、
恋人同士が一緒に食べると永遠の幸せがおとづれると言われていた。
けいたは恋人と一緒に食べたかったわけではない、ただ一度だけでいい、食べてみたかったのだ。

しかし、どこを探してもレシピは無かった。
はなこは、いつか作ってみたいと思っていたが、
みんな迷信だと言っていたのであきらめていた。

はなこは、祖母から昔話で一度だけレシピを聞いたことがあったが忘れてしまったし、周りの人にその話をしても「噂で町おこしをしたいだけだから、嘘だよ」と信じてはくれず、教えてはくれなかった。

はなこは、せっかくの機会だし、一週間お店をお休みにした。

けいたは、お菓子について情熱的だ。
舌が肥えていて、批評もできる。
しかし、お菓子を作る器用さがなかった。
だから、お願いするしかなかった。
はなこは、そんなお菓子職人になれなかったけれど、
お菓子に対して情熱を話すけいたに触れ、
伝説の恋のチョコレイトを再現しようとした。

一週間、はなこはお店を閉めて、彼と町へ冒険に出た。
田舎町を駆け巡り、町の古いレシピ本や、遠くに住む元お菓子職人のおばあちゃんたちを探して噂話の話を聞きながら、レシピを作ることにした。

どうも、町の山奥の丘に咲く、植物、花やキノコをスパイスに使ったお菓子のようだ。

けいたは、自動車の免許をもっていなかったため、
町の人に借りた自転車の後ろに、はなこを
のせ、スピードを出して、山奥へ向かう。
はなこは、ふりおとされないように、けいたにしがみついた。

町のうつくしさが夕日にしみて、空には桃色の雲がひろびろとしている。
お店でただひたすらお菓子を作るはなこは、その景色にうっとりした。

けいたと、はなこは夜になっても帰らなかった、
泥だらけになり、汗を流しながら、
山奥で伝説の恋のチョコレイトを作るための、
秘密の材料を探し続け集めた。


はなこは、試行錯誤しながらお菓子を寝ずに作り続けた。
けいたのためでもあるが、お菓子を作るのはたのしい。
けいたは、その熱心な、はなこの姿に、どきどきしてしまった。

ふたりが、伝説の恋のチョコレイトを作り終わるころには、
すっかりふたりとも恋心を抱いていた。

「できた!けいたさん、できたよ!」
作業場の端で座って寝ていたけいたを起こした。
「ほんとう!?」
けいたはびっくりして起き上がる。

震える手を抑えながらはなこは、最後の材料で作った伝説の恋のチョコレイトを
包丁で半分にした。

そして、ふたりで同じものを口にした。
花の香りが鼻孔を刺激し、優雅な気分にさせた。
そして心がほんわかした。
ふたりは幸せと愛に包まれた。

けいたは、また冒険に出る。新しいお菓子を求めて。
そして、けいたの集めてきたレシピを元に、はなこは再現する。

町にはお菓子の伝説がつぎつぎと生まれた。

甘い恋の冒険は、けいたとはなこの永遠の幸せを見つけた。
お菓子の味と、愛の甘さを分かち合い、ふたりのレシピは町の人々に
語り継がれるだろう。
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