第5話 遠距離恋愛~香りの愛~

文字数 1,238文字

彼の匂いが好き。
どうにかなってしまいそう。
甘くて、切なくて、胸がキュッとなる想いを
いつまでも思い出す。

私はゆりな。もう29歳になる。
結婚もせず、仕事に夢中で彼氏もいない。

私は香りが好きで匂いフェチ。
好きな男がいる。しょうたくん。
しょうたとは働いている香水の会社で出会った。
私はいつも香りに魅了されていた。
そして、しょうたが選び身につけている香りも好きで、恋に落ちた。
しょうたは海外に転勤となり、私は儚い遠距離恋愛となった。
付き合ってはいないけれど、おたがい特別な関係なのはお互いわかっていたから
何も踏み込まなかった。週に1度オンラインで話す程度の関係で、仕事以外ではソレが
私のたのしみだった。

「じゃあ、また日本に戻るのは、2年後かな」
「2年かぁ、長いね。」
「待っててくれる?」
「うん、待ってる。」

何を待っててくれるかは、そういうことだ。
彼が日本から海外へ転勤するとき、寒くてマフラーを巻いてくれた。
借りたままのマフラーから彼の匂いがする。
彼の香水の匂いが染みこんだマフラーの匂いが私を幸福感で満たした。
なにより、彼が身近に感じ、彼の香りが特別な意味を持つようになった。
「いい匂いがする。」
でも、これは彼には内緒。
恥ずかしいから。

もうそろそろ、私の誕生日、30歳を祝ってくれるのはいない。
「ゆりな、もうそろそろ誕生日じゃない?なにか欲しいものある?」
「え、祝ってくれるの?うれしい!えっと、なんでもいいよ!」
「そっか、なんか考えとくよ」
「・・・!ありがとう」
そんな会話をオンラインで話したけれど、彼はきっと覚えていないだろう。
自分で自分用のケーキでも買おうか考えていたところチャイムがなった。
ピンポーン。
「宅配でーす。」
「はーい」
「ここにサインか判子を・・・」
紙袋に小さい箱が入っていた。
しょうたからだ。
私は丁寧に包装紙を開けると、そこにはシャネル、ナンバー5が入っていた。
「・・・!すごい、うれしい。」
私は香水が大好きだった。
中でもシャネルは大好きな匂いだったけれど、自分の会社の商品ではないため、
つける習慣はなかった。
ネロリ (ビターオレンジの花)が香り、その後ラグジュアリーなローズ ドゥメとジャスミンが織りなすフローラルな香りのハーモニーにアルデビドの爽やかな香りが重なる。

しょうたは、ゆりなに送る贈り物を考えていた。
ゆりなの好きな香りにしようと決めた。
香水は、しょうたの独占欲と、ゆりなが遠く離れた場所でもいつも自分を
思い出してくれるようにという思いが込められていた。

贈り物が届いた時、ふと涙が溢れた。
その香りが、彼との距離を感じさせない、愛の証のように感じたからだった。

さっそく、私はオンラインで、しょうたにつないだ。
あいにく、彼は仕事の時間でつながらなかったから、メールでお礼を送った。

私は、シャネル、ナンバー5を身に着けた。
遠距離でも、香りという結びつきが、私の心を強くてして、ふたりの心を繋げた。
そして、ずっと、すてきな思い出として残ったのである。いつまでも。
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