第1話

文字数 1,379文字

 [プロローグ]
 今世紀最大の発明、いや、人類史上最大の発明を博士はした。
 助手たちは握手をしあい、また感激の抱擁をしている。
 博士はこれまでの年月を思い起こし感慨に浸っている。よくぞここまでこぎつけたものだ……。

 博士が発明したものは、叶願望即変身機(以下、「変身機」という。)である。ここで変身機の理論を説明しても、読者諸氏には理解しがたいと思うので割愛する。簡単に書くと、じぶんがなりたいものにへんしんできるきかいである。難しく書くと、自分が成りたい物に変身出来る機械である。
 動物のほか植物や鉱物にも変身できるのだが、元の自分に戻るためには「元の自分に変身する」という意思が必要なのだ。生涯を石や土で過ごしたい人間はいないだろうが、意思を持てない無機物になったらもう元に戻れない。
 使用は出来る。が、改良する必要もある。まだ助手たちの力は必要なのだ。

~以下、各エピソードへ続く~

[エピソード 1]
 博士は一人ひとりに労いの言葉をかける。
 一人の痩せた助手の前にくると「きみは途中からの参加だが、よくやってくれた。留学生だったよね?」
「はい、KOCHIRA国からです」
「いろいろありがとう。君がいたからこそ、これほど早く完成したんだ」
 助手も喜んでいる。本心から――

 痩せた助手は飛行機が離陸すると、シートに身を沈め、ほーっとため息をつき呟いた。
「ようやく変身機の理論とデータを盗み出せた。自分の理論も提供しながら二年半、博士の下で忍んでいた甲斐があった」
 助手は優秀な科学者であり、KOCHIRA国のスパイだったのだ。この数週間は特に本国から、隣国ACHIRAとの戦いが不利なのでミッション011~変身機を奪え作戦~を早く遂行するよう督促をうけていたのだ。まだ使い勝手の面で改良が出来るはずだったが、それまで待たないで持ち出してきた。変身するまで半日以上変身機の光線を浴びなくてはならない。
 だた、光線が広がるように改造して一度に多くの者に当たるようにすればKOCHIRA国の目的には合致する。これくらいなら図面に手を加えるだけだ。出来るだろう。
 本国へ戻ると有能な技術者を集め実用化させた。

「総統領。変身機が前線に配置されました。これでわが軍は一挙に反撃できます。いや、反撃どころか敵を壊滅させるでしょう」
軍長官は嬉しそうに言った。
「うん。報告は聞いているが、そんなにすごいものなのか?」
「そうですとも。実験で象に変身した兵が大暴れしたことはご存知でしょう」
「うん。幸いにというか不幸だったというか、対する模擬戦隊は大怪我をした者が続出したそうだな」
「今度はわが軍選りすぐりの精鋭3000人の将兵が、あのゴジラに変身して攻撃するのですから、いくら新型戦車を装備した敵といえどももひとたまりもないでしょう」
 ワハハハと笑い、この勢いで首都まで攻め上るか! と長官は上機嫌で言った。

「長官、前線司令官から電話です」
 副官が受話器を持ってきた。
 受話器の奥からは司令官の興奮した声が届いた。
「長官、何という機械ですか!」
「そうだろうとも。もう成果がでているのか!」
「とんでもない! 大事な将兵がゴジラの着ぐるみやオモチャの模型になってしまいました」

 博士は新聞を読んで呟いた。
「あの助手は知らなかったようだな」
 変身機は、架空の物には変身できないことを。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み