第10話

文字数 1,017文字

 彼の口から沢山の言葉が流れるように出てくる。そのほとんどを聞き漏らしてしまったが、最後の部分だけはしっかりと捕まえる。

「じゃあ、私、正解じゃない?」

 彼の言葉に、小首を傾げながら判定の是非を問う。

「そう! ほとんど正解。でも、もっと正確に答えるなら、気象庁によって定義付けされていないので区別をすることは難しいけれど、予め動きがわかる低気圧などの雲によって起こる夕立と違って、突然雲が沸き上がるのがいわゆる“ゲリラ豪雨”の特徴……かな。あとは、傾向として一つ言えるのは、ゲリラ豪雨という言葉は、気象庁が発表する『記録的短時間大雨情報』が出されたときに使われるケースが多いことかな」

 いつもよりも口数が多く、いつまでも天気の話を楽しそうにしている彼がなんだか新鮮で、彼の話している内容が分からないのに私はただただ聞き続ける。

 そして彼の声音にどっぷりと浸かる。低くもなく、高くもなく、早くもなく、遅くもなく。耳心地の良い彼の声に囚われた私の耳には、いつしか雷様の威嚇は届かなくなっていた。

「ねぇ? なんで、そんなに天気に詳しいの?」

 今まで知らなかった新たな彼の一面を知り、ますます彼のことを知りたくなる。

「気象ってさ、地球の感情みたいじゃない? 晴れの日は機嫌がいいのかなとか、大荒れの時は、何をそんなに怒っているんだろうとか。子供の頃にそんな事を思っててさ。天気の事を調べ出して。いろいろ知識を得て天気のことが少し分かるようになったら、もっと知りたくなって……」

 彼の話を聞くうちに、私の頭にはある言葉が浮かんできた。

「あ〜、つまり、アレだ! 颯斗って、オタクなのね! 天気オタク!!」
「……うん。まぁ、よく言われる」

 私の間抜けなツッコミに、彼は照れたように笑う。その笑顔がとても可愛くて、思わず見つめてしまう。

 私の視線に気がついた彼が、不思議そうに聞いてくる。

「何? もしかして、ちょっと引いた?」

 彼は困ったように少しだけ眉尻を下げるけど、私は全然引いてなんかいない。むしろ、私も天気の勉強をして、彼の話にもっとついていけるようになったら、彼は一体どんな顔をするかしらなんて密かに考えてたり。

 私はにこやかに首を振ると、窓を指す。

「ううん。何でもない。それより見て」

 窓を激しく叩いていた雨はいつの間にか止み、薄日が差し始めていた。

「雨、止んだね」
「うん。颯斗の言った通り」
「パンケーキも食べ終わったし、そろそろ行こうか」
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