第6話

文字数 1,014文字

 私たちが入店した後から何組かの入店があり、席が徐々に埋まり始めている。

「お客さん、増えてきたね」
「みんな、僕らみたいに雨宿りが目的だろうね」
「ホント、降られる前にお店に入れて良かったわ」

 そんな事を言いながら、お互いに目を見てクスクスと笑い合う。確かに言われてみれば、席についたばかりの客たちは濡れた髪を拭いたり、服や鞄の滴を払ったりする動きをしていた。

 それからふと気になって、彼に聞いてみた。

「そういえば、どうしてコーヒーショップやハンバーガーショップじゃなくて、カフェだったの?」

 彼は着席時に店員によって出された水をコクリと一口飲むと、さも当たり前という顔で私の問いに答える。

「だって、通り雨だから」
「なにそれ? どういう事?」

 彼の答えが意味するところが分からず、私は間抜けな問い方をしてしまう。

「雨宿りは、カフェでって決めてるんだよ。僕は」
「えっ? 決めてるって……もしかして、マイルールって事?」
「うん。まぁ、そうだね」

 そう言いながら、彼は恥ずかしそうに片頬をポリポリと掻く。そんな彼をポカンと見つめていると、恥ずかしげに視線を逸らしながら彼は言葉を足す。

「それに、今日は未奈と一緒に居るからね」
「私?」
「そう。未奈といるから、尚更カフェでなくちゃダメだったんだ」
「なんで?」
「だって、コーヒーショップやバーガーショップって、手頃な価格だし、いろいろな所に店があるから利用しやすくて、晴れていても結構人がいるだろ?」

 そうなのだ。コーヒーショップもハンバーガーショップも、いつも沢山の利用者がいる。時には、レジ前に列を成しているところを見かける事もある。

「利用しやすいということは、雨宿り目的の客で店内が混雑することが予想される」
「まぁ、そうね」

 彼の予想はそれほど的外れではないだろう。私も、彼にカフェと問われてパッと思い浮かべたくらいなのだ。それほど身近で利用しやすいのだから、雨が降り出せばすぐに多くの人が店へ駆け込んでくることだろう。

 そんな場面を想像して、私はコクンと肯く。

「つまり、満席で席に座れないかもしれないだろ。それに」
「それに?」
「人が多いと、騒がしくて未奈とのおしゃべりを楽しめない」

 イタズラっ子みたいな笑みを向けながらそう言う彼の言葉に、途端に私の顔は赤くなる。

「な、何言ってるのよ! もお〜」

 慌ててツッコミを入れるも、それ以上なんと言っていいか分からず、一人アタフタとしてしまう。
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