第3話 幽霊列車

文字数 3,208文字

そこには青白く仄かに光って見える謎の列車が止まっていた。
「これが噂の・・・?」
「幽霊列車!?」
「まさか本当にあるなんて・・・・」
最近の電車には見えなかった。平成、いやもしかして昭和なのかな?すごく前の古いデザインな気がする。その列車はとにかく長くて何両編成かもわからないほどだった。

「私わかった! ここってさ村山台駅の隠し路線で、たぶんこの電車は東京帝都鉄道とかそんな古くてレトロ時代のめっちゃ貴重な電車で、産業文化ザイとか呼ばれる何じゃないの!?」
「何いってんの?よく見なよ、この電車LEDじゃなくて、車両そのもの全体が光ってるんだよ! 光る金属なんてありえるの?」
「蛍光塗料とか?」
「ねえそれよりも、周りをみて」

振り返ると周りの風景は現実の世界ではなく、まるで宇宙のように暗闇が何処までも遠くまで続いている。その中で駅の構造物と私たちだけが孤島のように存在していた。


私たちが降りてきた階段を振り返えってみると、連絡橋が向こうからどんどん消えてゆくのが見えた。橋を構成する橋脚や壁がつぎつぎにまるでコンピューターグラフィックスのポリゴンみたいに細かく分割されて粉々になって真っ暗な底なしの世界に次々に落ちては消えて行ってしまった。

「おいっマジかよ!・・・・嘘だろ?」

「橋が消えちゃう・・・」
「もう戻れない」
すると何処からともなく声が聞こえてきた。それは中性的というかまるで子供のような無邪気さを感じるかわいらしい声だった。
《黄昏の特別臨時列車をお探しでしょうか?》
「え?」
「なにか声が聞こえたよね!」
「誰!?」
辺りを見渡したけど姿は私たちの他に誰もいない。
《私はこの四番線ホームを担当する車掌です。ここです、ここにおります》
そのかわいらしい声がもう一度聞こえてきた。どうも私たちのすぐ側、低い場所から聞こえて来た気がした。
「車掌?」

「それって駅員さん?」
「こんなところに仔犬が・・・」
「ってまさか、こいつが喋ったの?このぬいぐるみみたいな」
「仔犬の人形?」
そこには一匹の小さな犬がいた。ホームの石の床の上にチョコンとおとなしく座っていた。白と黒のツートンの小型犬で頭の上にそれっぽい小さな車掌がかぶるような帽子が乗っている。

《はい、私は犬のお巡りならぬ犬の車掌であります》
「ん?はい?」
「犬のお巡りさん、は時代遅れでしょうか?つまらない冗談を言ってしまったようですみません」
「犬ってしゃべるの?」
「しゃべるわけないでしょ!?」
「でもかわいい」
《子犬の姿のほうが安心していただけると思いまして》
「それってもしかして気を使ってくれてるってこと?」
《はい。なんの因果か自らの意思でこの場所を所望しいらっしゃる来訪者の方々から、都度任意でご感想を聞いておるのですが、リアル車掌の姿で急に出現されると見た目が怖すぎて引く、とのご意見がございましたので、今回は久し振りの出番ではございましたが、相手が女子高校生ですしこの仔犬の姿で対応させて頂いております》
「そのへんは現実的なんですね・・・・」

「つまりコスプレってこと?にしてもしゃべる犬っていったいなに!?リモートモニタリングドッキリとか!?」
「地上波のTV番組にたしかにそういうのあるね・・・・」
《困りました。どうやら今度は仔犬スタイルは説得力がないようですね。しかしながら私はこの四番線ホームの唯一無二、本物の車掌であります》
「車掌ってことは?切符を切ったり確認したりするの?」
《いいえ、この列車に切符は必要ありません。私は皆さんに安心してご乗車して頂くための対応スタッフです。納得いただくように疑問やご要望に丁寧にお答え致しますので》
「私たちの為だけに?」

《はいそうです。この列車はアナタ方がご所望していた正真正銘の幽霊列車で、村山台駅に停車したのはあなた方をお乗せするためです。どの車両にご乗車頂いても構いません。好きなところからお乗りください。終点は夕闇が丘駅になります》
「やっぱり幽霊列車なんだ・・・・」
「こうして見ても言われてもまだ信じられないけどさ・・・・どっかにワンチャンカメラあんでしょ?」
「いやリアルな話、連絡橋は消えちゃったし、もう帰れそうにないよ」
《はい、そういうことです》
私はそれでもやっぱり騙される気がして、あたりにビデオカメラが仕掛けられているんじゃないかと探してみた。しかしここは辺り一面の暗闇に閉ざされた孤島のような状況だ。さっきまであったはずの連絡橋や壁や橋脚なども跡形なく喪失していた。この暗闇自体がドッキリの為に駅ごと瞬時に入れ替える大掛かりなセットなどありえなし、超常的なチカラが働いたとしか思えなかった。完全に四番線ホームに取り残されてしまったみたいだ。もしくは閉じ込められたというべきなのかもしれない‥‥。
「この電車はその夕闇が丘っていうところに向かうの?」
《はい、終点が夕闇が丘になります》
「ふぅんそれで、幽霊列車は終点に着くとどうなるの?」
《ターミナル駅、つまり終着駅が夕闇が丘駅です。そこで全員降りて頂きます。でもいくつか途中の駅がございましてそこに停車する場合もあります。途中下車するかはお客様とご気分と運しだいです》
「運しだい・・・?」
私たちはしばらく無言のままお互いの顔を見合わせた。
「途中駅ってあの世に続く中継地みたいな意味? 誰かが乗ってくるんですか?」
《はいあなたは話が分かる方ですね。おっしゃる通りです》
「今更かもだけど・・・あたし怖くなってきたんだけど」
「周りはこんなだし、ユナの言ったとおりもう帰れないみたいよ」
「乗るしかないってことですね・・・」
《ご覧の通り皆さんご所望の特別な列車を用意いたしました。期待したとていつも現れるわけではありません。いや藁の山の一本の針を見つけ出すような確率でしょう。しかしあなた方は運が良かった。つまりそういうコトになりますね》
「運がいいって・・・・悪い冗談にしか聞こえないんだけど」
「もう乗るしかないでしょ」
「私たちの周りでなにか稀有なことが起きたのかもね・・・・」

《それでは足元にお気をつけてご乗車ください》

私たちは覚悟を決めた!


恐る恐る中へ乗り込むと、車両の中は清潔で内装も傷んでる様子もなかった。座席は古風な感じだけど、しっかりした作りで、二つを一対に向かい合わせになって四人掛けになりそれが整然と並んでいた。

三人それぞれ車内をキョロキョロしながらウロウロしていたけど、やがて一箇所に集まって座った。外を見ると、小型犬の車掌がまだホームに座っていて、私たちに向かってワン!と一声吠えた。そして扉がしまった。

「乗っちゃったよ!」
「マジでこれからどうなるんだ?」

「わかんないけど、少なくとも都市伝説が現実だってことじゃない‥・?」

そんな感じで列車に乗り込んだ私たちは落ち着かなくなって、椅子から立ちあがり、ああだこくだ推理を出し合っている内に私とコウで言い合いになってしまって、しばらくもめていたけど、それよくあることだから、そのうち仕方がないとあきらめて、もう一度一緒にボックス席についた。そして少し気持ちが落ち着いたのか、三人とも長い時間黙り込んだ。



ーそして冒頭に至る。

まるでサンリオキャラクターのような見た目の可愛らしい仔犬の車掌の可愛さに誤魔化された感じで乗り込んだけど、この乗り物は冗談抜きガチの幽霊列車なのかもしれない。だんだんその現実味が増していった。

さっきまで村山台駅にいた私たちは、異界の変化に追いつけずに現実感を何処かに置いて来てしまったかのように、車窓の外をぼうっと見つめるだけだった。



星の存在しない宇宙のような真の暗闇の中を通り過ぎているようで、無限の長さのトンネルの中を走っているような気がしてきた。


 それからどのくらい時間が経っただろう。外は相変わらず漆黒の景色が続いた。しかし突如として前方の方から明るく光が差し込んでくるがわかった。
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登場人物紹介

白井ユリ。主人公。雛城高校二年生。二年になってバスケ部をやめて今は無所属。身長百六十センチ。体重ヒミツ。髪は肩よりちょっと長いくらいで黒髪を後ろで一つ結びにしてる。校則は茶髪は禁止だけどポニーテールは一応OK。



物語の中心的キャラクター。

紫山コウ。雛城高校二年生。陸上部所属。

瀧沢ユナ。雛城高校二年生。美術部所属。少し霊感あり。

犬の車掌。

千徳ユミヨシ。八王子にある儀仗大学に在籍する大学生。しかしずっと前に亡くなっている。それが何年前のことかだったか本人も忘れてしまっている。

海辺に現れた謎の女の子。

正体不明のおじさん。

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