第4話 同乗者

文字数 2,794文字

「ねえ見てみて、前のほうが明るくなってきた。光だよ!」
「トンネルから抜けるのかな?」
「そういえばさっき車内アナウンスあったよね。駅に停まるのかな・・・・?」
「ヤバイって!着いたらもうあの世かも!!」
そんな時、隣の車両との連結扉が開いた。そこから一人の若い男が姿を現した。
「こんにちは・・・」
 長身で清潔感のある若い男性だった。ぱっと見た感じ大学生という印象で、目元がはっきり見える髪型に、細いフレームの眼鏡をかけていて知的な雰囲気がある。彼はどこか近くのキャンパスからの帰りに乗ってます、みたいな感じで、私たちのいる方に歩いてきて、印象通り爽やかな笑顔で挨拶してきた。
「わっ・・・こ、こんにちは」
「おっイケメン!」
「・・・・・・」
「もしかして君たち、自分から望んでこの列車に乗ったのかな?」
「えっと〜はい!村山台駅で乗ったんですけど・・・」
「望んでって言うより、乗せられたってか、もう乗るしかないってそんな感じで」
「・・・・・・」
「私たち村山台駅には昔から幽霊電車の都市伝説があるって聞いて、それて試しに行ってみようってことになって、夜の駅を探索してたんです。そしたら本当に4番線ホームが!そしてそこにこの電車が停車してて・・・。あなたも村山台で乗ったんですか?」
「うん・・・まぁそうだね。僕も村山台駅だけど」
「やっぱりそうですか・・・。でもこれって本当に噂の幽霊列車なんですか?ていうか村山台駅の噂って知ってます?」
「みんなががそう呼んでるならたしかにその幽霊列車だよ。幽霊電車、死霊特急、黄泉急行霊界行き、とか違う呼び名があるらしいけどね」
「マジであの世行きってことですか?ヤバッ」
「僕の千徳由実良。気軽にユミヨシと呼んでよ。君たちといっしょに乗りあわせてしまったのも何かの縁かもしれない、よろしく」
「あっ私は白井ユリです。よろしくお願いします!」
「ボクは柴山コウ。よろしくね!ユミヨシ」
「なんで男キャラになってんだよ・・・こいつすぐ調子に乗ってふざけるんです。すみません」
「いや元気でよくていいよね、ホントに活気ある女子高校生ってかんじじゃない?」
「あっとそうマトモに返されるとちょっと恥ずい・・・」
「ツンデレか!てかクーデレか?いやどっちでもないな」
「私は瀧澤ユナです。よろしくお願いします。・・・それであの、ユミヨシさんはどうしてこの電車に乗ったんですか?」
「僕はねぇ、もう何年経ったのか自分でも忘れていってるんだけど・・・・・実は村山台駅で死んでしまったんだ」
「え!?」
「マジ?」
「残念ながら本当なんだ。電車に轢かれてしまってね」
「ユミヨシさん・・・・つまり自殺したの?」
「いや自殺したんじゃないんだ。ある日、村山台駅で電車を待っていたんだ。そしたら近くに立っていた女性がおもむろにホームから転落して。もう間もなく電車が来るってわかっていたんだけど、僕は瞬間的に助けられるかどうか五分五分だなって思ったんだけど、躊躇う頭よりさきに体が動いて線路に飛び降りていたんだ・・・・。で結局もう間に合わなくてね。気づいたらその時にはもうこの電車に乗っていたってわけ」
「うっ・・・・」
「そうだったんですか・・・・・」
「・・・てことはユミヨシさん、暗にもう死んでいるってつまり幽霊・・・ですか?」
「ああそのとおり。僕は死んだ人間だよ。僕の足元を見てよ。ほら影が無いだろ?」
「ホントだ! あっでも私たちにはちゃんと影ある」
「ホントだ!ユナにもあし、私にも。でもあるにはあるけどさ、なんていうかいつもより影が薄いような・・・」
「それは君たちが現実の世界で死なずにこちら側に迷い込んだせいだよ。君たちはこの世界で中途半端な存在なんだと思う」
「迷い込んだ?それって生きてもないし死んでもない、みたいな意味ですか?」
「そうそんな感じ。影を失うということは、影を形作っていた肉体がなくなったということ。つまり現世で死んだことを暗示しているのさ。もし君たち自身の影が完全になくなったとしたら、僕と変わりない存在ってことだろうね」
「ええぇ?あたし別に死ぬつもりないんだけどなぁ・・・」
「ユミヨシさん何か帰る方法とか知ってないですか?」
「いやそれは僕もよくわからない。以前も何人か、影が残ったままこちらに来てしまった人たちと出会った。でも彼らの何人かはいつの間にかいなくなったか、残りの人々はそれぞれ胸の中で、黄昏の世界を受け入れたか何かしら感じたのか、自分の意思であの世へと行ってしまった」
「正直、死とか生とか言われてもよくわかんないんですけど、帰れるかは置いておいて、今もうすでに半分私たち死んでるっていう意味ですか?」
「うん、そういうことになるね。でも僕は君たちを助けたいと思ってる。何か方法が見つかるかもしれないし、僕ができることなら手助けするつもりだ。君たちが元の世界に帰るために」
「てか、そういえば思い出した! たしか私が小さい時の話のずっと昔の事件で、村山台駅で自殺しようとした人がいて、助けようとして若い者が線路におりたんだけど、結局どっちも亡くなってしまったって・・・・。その何回忌法要をしたってニュースで最近知ったんだけど、それもしかしてユミヨシさん?」
「その話私も聞いたことある。新宿駅だったか、同じように死のうと思って飛び降りた人を、近くに板二人の男性がその後に飛び降りて助けたって言うニュースをみたの。その中で助けた人がインタビューに応じて話してたんだけど、一瞬の判断の間にユミヨシさんの事件のことを思い出して、背後で「大丈夫だ今なら助けられる」って言われた気がして勇気が出たって話してた」
「ユミヨシさんすっごい人だったんだね!自分の命まで失ってしまったのは悲しいけど・・・・」

「すごくなんかないよ・・・・でも自分が死ぬなんて思ってなかった。でも死んでしまった。橋をわたらずここに留まっていた理由は、まだ誰かを助けられないかって思ったんだ。でもそれもただ未練たらしい気持ちだったのかもしれないけどね。結局あの時僕と共に死んでしまった女性に会うこともなかったし、誰かを生かすこともできなかったし、ただ無意味なことをし続けているだけなのかもね」

彼の話を聞いていた私たち三人はそのまましばらく何も言わず黙っていた。


彼のように真っ直ぐな心を何も臆すことなくストレートに表す人を久しぶりに見た気がした。というよりもはじめて見たのかもしれない。しかし彼はすでにもう死んでいるらしい。


すると列車は減速し始めた。


窓の外の真っ暗闇の世界に徐々に光が戻ってゆく。やがて闇を吹き飛ばすように光は強烈に辺りを包んでいて、気づくと信じられないことに、車窓に夏のような日差しと海岸線の景色が見えた。南国のヤシ科の植物がつぎつぎに通り過ぎていった。


次に停車する駅は海に面しているみたいだ。


(つづく)



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登場人物紹介

白井ユリ。主人公。雛城高校二年生。二年になってバスケ部をやめて今は無所属。身長百六十センチ。体重ヒミツ。髪は肩よりちょっと長いくらいで黒髪を後ろで一つ結びにしてる。校則は茶髪は禁止だけどポニーテールは一応OK。



物語の中心的キャラクター。

紫山コウ。雛城高校二年生。陸上部所属。

瀧沢ユナ。雛城高校二年生。美術部所属。少し霊感あり。

犬の車掌。

千徳ユミヨシ。八王子にある儀仗大学に在籍する大学生。しかしずっと前に亡くなっている。それが何年前のことかだったか本人も忘れてしまっている。

海辺に現れた謎の女の子。

正体不明のおじさん。

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