第4話 同乗者
文字数 2,794文字
「すごくなんかないよ・・・・でも自分が死ぬなんて思ってなかった。でも死んでしまった。橋をわたらずここに留まっていた理由は、まだ誰かを助けられないかって思ったんだ。でもそれもただ未練たらしい気持ちだったのかもしれないけどね。結局あの時僕と共に死んでしまった女性に会うこともなかったし、誰かを生かすこともできなかったし、ただ無意味なことをし続けているだけなのかもね」
彼の話を聞いていた私たち三人はそのまましばらく何も言わず黙っていた。
彼のように真っ直ぐな心を何も臆すことなくストレートに表す人を久しぶりに見た気がした。というよりもはじめて見たのかもしれない。しかし彼はすでにもう死んでいるらしい。
すると列車は減速し始めた。
窓の外の真っ暗闇の世界に徐々に光が戻ってゆく。やがて闇を吹き飛ばすように光は強烈に辺りを包んでいて、気づくと信じられないことに、車窓に夏のような日差しと海岸線の景色が見えた。南国のヤシ科の植物がつぎつぎに通り過ぎていった。
次に停車する駅は海に面しているみたいだ。
(つづく)