第5話 白浜駅

文字数 899文字

長い暗闇のトンネルを抜けた先には何か恐ろしいことが待っているかもと身構えていたのに、その様相は良い意味で裏切られて、そこから見える世界は、鮮やかな光を受けたホームとよく晴れた空と白い砂浜と海だった。


駅のホームから緩やかに下る丘陵地になっていて、それほど遠くないところから白い砂浜が始まり海に向かって広がっていた。それに波が穏やかに打ち寄せてて黒い砂のグラデーションを作り、沖に行くほど海は藍色を深くして一番遠くに水平線がくっきりとみえた。人も船も鳥もおらず、波の音だけが静かに響いていた。それとは反対側にはホームの下は岩棚になっていて、そのまま垂直に落ち混んだ崖になっていてそちらも海が広がっていた。つまり長細い半島のような場所にこの駅がある感じです。


空も海も都内に住む私が知らない青さだったけど、直感的にそれが南国の海だとわかった。

「すごい海じゃん!しかもすんげぇ〜綺麗なやつ!!」

案の定コウが一番先に嬉々としながら列車から飛び出していった。私とユナそしてユミヨシがその後に続いた。
「本当に綺麗な海だよね!信じられないくらい」
「コウちゃんならしかねないね・・・。でもなんで列車この駅に停まったのかな?」

「駅はそれぞれ誰かの記憶の集合体なんだ。だからなぜかはじめて見た景色でも懐かしい気持ちがするって言うもんさ」


ユナの隣に立っていたユミヨシが説明してくれた。
「どのくらい途中駅があるの?」
「それはかならずしも決まってないよ。でも列車がこの駅に停まった訳はなんとなく分かるけど・・・」
「どういう意味ですか?」
その質問にユミヨシは何も言わないままプラットホームから階段を下りると海に向かって歩きはじめた。


波打ち際にいたコウがそれに気づいて戻って来て、ユミヨシは近づいてきたコウに一つ頷いて微笑むと、眩しそうにしながら砂浜が作っている白くて長い帯の遠い彼方に視線を移した。
「人だ・・・」
「え?」
ワンテンポ遅れながら私もそれに気づいた。小さな人影がゆっくりとこちらに向かって歩いている。ホントに小さな人影、それはまだ幼くて小学校の低学年くらいに見えた。


そしてユミヨシもその少女のほうへと歩いて行くのだった。

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登場人物紹介

白井ユリ。主人公。雛城高校二年生。二年になってバスケ部をやめて今は無所属。身長百六十センチ。体重ヒミツ。髪は肩よりちょっと長いくらいで黒髪を後ろで一つ結びにしてる。校則は茶髪は禁止だけどポニーテールは一応OK。



物語の中心的キャラクター。

紫山コウ。雛城高校二年生。陸上部所属。

瀧沢ユナ。雛城高校二年生。美術部所属。少し霊感あり。

犬の車掌。

千徳ユミヨシ。八王子にある儀仗大学に在籍する大学生。しかしずっと前に亡くなっている。それが何年前のことかだったか本人も忘れてしまっている。

海辺に現れた謎の女の子。

正体不明のおじさん。

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