第3話

文字数 1,060文字

眼は充血して落ち窪み、顔中に寄る皺。
老婆の様なのに
何かを欲して止まないその眼はギラついて
見られたら最後、取り殺されそうです。

イチロウさんがノリちゃんに向けた鱗鏡には
確かに鬼女が写っています。

ノリちゃんが逃れようと仰け反った時
肩に何かが触れました。

「わー…。改めて見ると、ホント鬼ですねー」
とミヨちゃん。
「恐すぎて目が離せませんね」
と時生君。
「ま、いつものノリだけどな」
とコック長。
ノリちゃんの後ろで思いっきり覗き込む3人。


「…は?」

  なんなの?なんで鬼から逃げないの?
  『いつものノリ』って何?

そのノリちゃんの言葉を
コック長の次の一言が
ひゅっと飲み込ませました。

「コレ、いつものお前の顔だよ」

そう。
ノリちゃんは衝撃を受けました。
カウンターの高いスツールから
ズルズルと滑り降りるほどに。

でもそれは
鬼女が自分だと言われたからではなく…

「わかっていたのよね」
マダムの言葉に、ノリちゃんはどうしようもなく
力が抜けていくのを感じました。

こんな恐ろしい顔をする自分がいるなんて
信じたくなかった。認めたくなかった。
どうしても逃げたかった。
だから
誰にも見せたくなんかなかったのに…
なんで皆知ってるの?

「私…皆にこの顔見せた事あるんですか?」

3人は顔を見合わせて
「俺は毎日かな。
厨房のお前はほとんどこの顔だから」
とコック長。

「僕は夜お店に来て厨房覗いた時くらい
だったんですけど…
今日の昼、ノリさんの彼の好きな人の写真を
死んでも撮ってこいと言われた時は
正直そのまま取り殺されるかと思いました。
僕は浮気調査とか苦手なのに、
ホント死ぬ気で頑張りましたよ」
と時生君。

「私は厨房に入った時はいつも…」
とミヨちゃん。

  ・

  ・

  ・


  そんなにー!!!???

「え?え?え?
でもわたし、わたし、みんなから
〝ふんわり〟してるとか〝天然〟とか
そんな感じで見られてるでしょ?」

3人ともキョトンとしています。

  え?そうじゃないの?

「それもお前だし…」
コック長は続けて鏡のノリちゃんを指さして
「コレもお前」

ノリちゃんはついに悲鳴をあげました。

「それはイヤなの!!!」

その時です。

それまで珍しく大人しかったミヨちゃんが
泣きそうな声で叫びました。

「やめて!!!そんなに嫌わないで!!」

いつもキャラキャラとしている
あのミヨちゃんがこんなに情熱的になるなんて
コック長と時生君は唖然としましたが
血が上ったノリちゃんは叫びかえします。

「なんなのよ!コレのどこがいいのよ!」

「だって!そのノリさんカッコイイよ!!」

  は?

今度こそ
ノリちゃんも皆と一緒に唖然としました。
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