第23話 引きこもりになると
文字数 1,833文字
おはようございます、五樹です。今朝もコーヒーを飲みながらこれを書いていますが、デカフェ、いわゆるカフェインレスコーヒーにしています。
昨日、時子が「悪夢を見たから眠りたくない、コーヒーを飲む」とわがままを言ったと話しました。
ここまでお読み頂いた方なら分かる通り、時子の生活はめちゃくちゃです。それから、彼女は外に出ない。大体が引きこもり状態で、外出するのは、病院に行く時と、音楽ライブに行く時だけです。
「主婦なんだから、買い物を夫に任せておいちゃダメなのに」などと考える事なら、時子はあります。でも、それ以前の問題です。
時子は、身体的にさほど問題なく、日常生活と社会活動を援助無しで出来る人ではないです。
まずは体の為に、少しは外気に触れ、のびのびと手足を動かして快さを味わうといいと思いました。
そこで、僕は先程、仕事から帰るだろう夫君へ、電話をしました。家へ帰ってから話そうと思っても、その時に僕達の意識が時子に代わっていたら、僕と夫君は話せません。
当たり前のコール音は6つ。
“もしもし?今コンビニから出たところだよ”
「ああ、有難うございます」
夫君はすぐに僕の声に気づき、“五樹”との会話をします。
「あの、最近この子がずっと元気が無い事についてなんですが…家を出てないからじゃないでしょうか」
“それはそうかも”
「前に頻繁に出掛けていた時は、夕方前に眠りたがったりしてなかった。前の生活に戻せれば…」
とは言っても、僕には、方法にあてはありませんでした。今の時子に「外に出ないと」と言ったところで、とても聞くとは思えません。
時子は、カウンセリング代や医療費が大分掛かる事からも、遊びの外出を控えていたからです。
でも、夫君にそれを伝えると、こう言ってくれました。
“俺が「散歩しようよ」って言って、連れ出してみるよ。それなら上手くいくだろ”
「それはいいですね。誰かに連れ出されれば、外に出るのは凄く楽なんですよ」
“じゃあそういう事で”
短い電話で僕達は方針を決定しました。
ところで、引きこもり状態だと、何が起こるか。
様々に悪い事があります。数え切れません。例えば食欲が減ったり、眠れなくなったり。
これは、実際に外に出ていないから、エネルギーや休息が必要なくなる面もあります。でも、僕は、そうした欲求を感じる能力が下がるんじゃないかと思います。
人間を刺激の無い空間へ留めておくとどうなるのか、という実験では、数を数えるスピードが変わっていったり、排便が滞ったりと、様々に身体精神への悪影響がありました。
時子の場合、身体面では、眠りの規則が乱れが、まずあります。それから、彼女はいつからか、強迫的に起きているのを怖がるようになった。
あとは、お腹が空いている感覚はあるのに、食事の用意に踏み切れない、というのは、バランスの悪い食事へ繋がりました。“手早く用意出来さえすればなんでも良い”という考えに至るからです。
それから、薬で解消は出来ているけど、酷い便秘や、自律神経の乱れから起こる不快な体調不良などもあります。
雨が降れば体が怠くて動かせなくなり、風の日にはどうしても眠くて眠ってしまい、台風が来れば目眩や動悸、激しい息苦しさなども起きます。
では、精神面では何が起こるでしょうか。
まずは、精一杯の慰めの言葉や、当たり前のスキンシップでも癒せない、激しい落ち込みです。
それから、冷静に建設的な考え方が出来なくなる、悲観的な思考回路が習慣化する、好きな事もなんだか楽しくなくなる。
それらを全部まとめると、「ずっと家に居て、楽しい事も無いから、悲観的で建設的ではない思考に囚われたまま、誰も慰められない落ち込みに落ちていく」となります。
加えて、前に話した身体面の、「いつもなんとなく体が怠くて、まともな食事もしていない」が上乗せされる。だから余計に外に出なくなる。悪い事だらけです。
これらの負のサイクルを断つには、今は辛くても、少し頑張って、外に出てもらうしかありません。その為にも尽力してくれる夫君が居てくれて、良かったと思います。
夫君との結婚前、時子がまだ、無口な父の家に居た頃は、「外出訓練」は独りでやっていました。
これからは、夫君が居てくれる。君はのびのびと生きて欲しい。僕はそう思っています。
今日もお付き合い頂き、有難うございました。もしかしたら、もう少し短く、千字くらいの方がいいのでしょうか?次回からそうしてみます。
それでは、また次の話でお会い出来ますと、嬉しいです。
つづく