友人へ

文字数 1,098文字

この前は特に詳しく聞かずに貸してしまったけれど、あれ、一体何に使ったんだい?

まあ、僕たちは昔馴染みだからね、信用はしているつもりだけれど、今になってふと気になったのだよ。

言いたくないなら、追求はしないさ、けど君、足がつくから買いたくないなんて言っていたからさ、何かよからぬ事をしてしまうじゃないかって気を揉んでいたんだ。

でもあの場では怖くて聞けなかったんだよ。知っての通り、僕は生粋の意気地無しだからね。

もし「人殺し」なんて単語が出たら、冗談ばかり言い合っていた僕たちの中でも問答無用で凍りついてしまいそうだったし。しかもあの時の君は、ちょっと、というかかなり、怖かった。

手紙でこんなことを書くのははばかられるけれど、大事に育てて、溺愛していた息子が亡くなった悲しさもまだ癒えていないだろう?

だから自暴自棄になってしまったんじゃないかって……もうずっと暗い顔をしていた君を見ていたから、そんな考えがよぎったんだ。

少し話が変わるけどこの前、郵便局で君を見かけたんだよ。受付カウンターで切手の綴りを買っていたよね。それも結構な量を。つまり君は頻繁に手紙を書いているんじゃないのかな?

違っていたら、本当に悪いんだけれども。それに推測でものを語るのは良くないとわかっているけれど、どうしてもそうとしか思えなくて、これはもう本人に確かめるしかないと思ったのだよ。

ほかでもない君に。

僕は思うんだけれどね、大切な一人息子をいじめていた、同級生へ宛てて君は書いていたんじゃないかい? 手紙を。内容は、想像もつかないけれど、その子が参ってしまうくらいの恐ろしい、文面だったんじゃないかと推測している。

そうして君は何度もその子へ宛てて手紙を書いた。なんでそう考えたかといえば、葬儀から数日たったある日、君は息子の部屋から日記が出てきたって言ってたよね。

息子がそんな目に遭っていたなんて、と君は零していて「死んでも許さない」とも言っていた。僕は本気にはしていなかったけれど、ここ最近の君を見ているとちょっと心配になったんだ。

”机の中に沢山嫌なことが書かれた手紙が毎日入ってる。学校に行きたくない。もう、死んでしまいたい”

日記にはそう書かれていたんだよね。だから君も書いたんだ。同じように、同じ苦しみを味わえるように、何度も、何度も書いて、送った。ポストを覗くのが怖くなるほど執拗に書いた。違うかい?

僕の貸したバールと作業着は、一体何に使ったんだろう。教えてくれないなら、それでもいいけれど、昨日、僕の家に警察が来たよ。君、悪いことは言わないから、正直に言った方がいいと思う。


本当は君が殺ったんだろ?



真実を知った親友より


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