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文字数 1,114文字

 
逆に一番ウィットに飛んでたのは、
デビット ネッガーのこの一文であろう。

コロニーから見下ろす地球は、
昔食べた青いキャンディーとかわらず見えた。

(ちが)うのはその大きさ。

この宇宙に浮かぶ大きな甘いキャンディーに
(むら)がる小さなアリ達。

それを想像すると気持ち悪さと同時に、
そこから抜け出した解放感(かいほうかん)を感じる。

この生徒の所感(しょかん)はともかく、いずれにせよ、
この日の出来事は、全ての人間の記憶に、
色濃(いろこ)く残る事となったのである。

多くの生徒達の記録はこの後、
日記と言う形で残される事となるのだが、
その中でほとんど日記を残さなかった
人物がいる。

アマテラスコンビと呼ばれた、
双子の兄妹である。

そんな双子の(わず)かに残された日誌の中に、
この日の事が残されている。

日記の本質が、その日の、
表象(ひょうしょう)情感(じょうかん)を残すものだとするなら、
その二人のそれは日記ではなく、
報告書のようなものだったが。

それほどまでに無機質(むきしつ)で、
無表情な所感(しょかん)(はぶ)いた記録でしかなかった。
 
宇宙(うちゅう)(がん)()元年(がんねん)
この日人類初の宇宙訓練所の生徒に選ばれた
総勢(そうぜい)42名と我々(われわれ)双子の二名は、
無事入港(ぶじにゅうこう)をはたした。

人類の新しい実験は、
これより第2フェイズに移行(いこう)する。

以上が(わず)かに残された双子の日誌である。

あまりに少ないこの双子の日記に対し、
一番多くの記録が残ることとなったのは、
その他大勢の日記に必ずと言っていいほど
この二人の存在(そんざい)が出てくるからである。

その意味ではこの二人は、
人々の目線の中にだけ存在し、
その本当の人物像をしる者は少ない。

それが今もこの二人が神話となって語られる
由縁(ゆえん)であろう。

なにはともあれ宇宙世紀000(がんねん)
華々(はなばな)しい人類の新世紀は、
こうして(まく)をあげたのである。

宇宙に浮かぶ希望の()りかご、
アトロパテネの中は、
いまだ平穏(へいおん)栄光(えいこう)に包まれていた。

このとき、誰も予想していなかった。

(かがや)かしき人類の栄光に(ひそ)む影に。

(のち)に語られる事となる、
箱庭(はこにわ)()(けん)火種(ひだね)の影が見えず(くすぶ)っている事に、
気付(きづ)く者は(いま)だいなかった。
 
 
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