文字数 1,270文字

 
放心(ほうしん)した(よう)にただその中で、
(すぺ)てを忘れ()かされてゆく。

どれくらいそうしてたか、
ふっと誰かに見られているような、
不気味(ぶきみ)感覚(ふあん)(おぼ)えた。

それは潜在的(せんざいてき)()もった不安の(あらわ)れだろうが、
それでもキャロンドはその不安が(ぬぐ)えず、
曇ったガラスを()いて部屋(へや)(のぞ)き見た。

室内は何も変わらず簡素(かんそ)で静まり返っていた。

気のせいかとほっとして目をそらした瞬間、
目の(はし)に何かの異質(いしつ)(とら)えた。

一瞬、写った違和感(いわかん)を思い返す。

ポッドの前に脱ぎ捨てられた衣服。

それ以外は何も変わらず部屋は簡素(かんそ)であった。

そして部屋の外に続く入り口のドアは・・・
開いていた。

えっドアが開いている!?

見間違(みまちが)いだろうとは思うが、
なかなか確認(かくにん)する勇気がもてなかった。

キャロンドはしばし思い(なや)んだ(すえ)
恐る恐る(ふたた)(すり)りガラスの(ドア)(ほほ)をつけ、
外を(のぞ)きみた。

(ほほ)から伝わる()やりとした硬質(こうしつ)感触(かんしょく)が、
恐怖を(あお)る。


室内のドアは閉まっていた。


途端(とたん)安堵(あんど)と同時に、
気恥(きは)ずかしさが()()げた。

何をしてるんだ自分はと言う自(じかい)羞恥(しゅうち)
目を(つむ)る。

そしてガラス()からゆっくり頬を外した瞬間、
キャロンドはその影を(とら)えた。

ポッドの前に立つ人の形をした影を。

恐怖と同時にやっぱりと言った考えが(よぎ)った。

やっぱりこれは夢なんだと。

自分がこんな分不相応(ぶんふそうおう)な事に、
(えら)ばれる(わけ)がないと。

ただその都合(つごう)の良い夢は今、
悪夢となって()めようとしていると。

影はゆっくりと()りガラスに近付き、
中を(のぞ)き見る目と目があった。

影はガラスに人の輪郭(りんかく)(シルエット)を(かた)どり、
それが男だとわかった。

だが人物が特定できるほど鮮明(せんめい)ではなかった。

キャロンドは本能的にバストを隠し、
それを見つめた。

人影はポッドの外で何かを操作していた。

「誰?」

その言葉に外の人物は初めて声を発した。

「扉をロックした」

その内容に、
この人物は会話するつもりがないと気づいた。

ポッドの中で噴出(ふんしゅつ)し続けるシャワーの温度が、
急速に上がり熱湯(ねっとう)に変わっていくのを感じた。


「開けて、お願い、開けなさい」


自分でも(わけ)(わか)らず恐慌(パニック)(おちい)りかけていた。

 
 
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