１

　
世界初の宇宙学園の先生に抜擢(ばってき)された
キャロンド・ブラウンは入学式を前に、
先生一人一人に宛(あて)がわれた自室で、
緊張(きんちょう)していた。

何を間違(まちが)ったのか自分は地球の遥(はる)か上空、
深淵(しんえん)の宇宙の中にいる。

およそ人が立てる一番の高みに来ている。

キャロンドにはその事実が、
なかなか現実として認識(にんしき)できないでいた。

思い返せば自分より優秀な先生は数多(あまた)とおり、
なぜ自分が選ばれたのか全(まった)くわからなかった。

もしかしたら自分には、自分の知らない所で、
自分とうり二つの優秀な双子がおり、
自分は間違って選(えら)ばれたんじゃないかといった
虚構(きょこう)さえ浮かんできて、
それが真実のように思えてくる。

実際(じっさい)自分を選んでくれた人には失礼な話だが、
キャロンドにはこんな自分を選ぶなんて、
その者は気が狂ってたとしか思えなかった。

キャロンドは格別、
自分に劣等感(れっとうかん)を覚える性格ではなかったが、
今は狂気としか言えないこの人事に
激(はげ)しく動揺(どうよう)し劣等感を抱いている。

じょうちょうした自分を辱(はずか)しめるため、
人類の代表の舞台を用意したような、
気さえしてくる。

自分が天才だと思い込んだ猿を舞台にあげ、
笑うため。

世界中の人々が嘲(あざけ)り笑う姿が、
何度も頭の中にリピートしていた。

キャロンドはそんな妄想を振り払うため、
室内に設置されたシャワーを浴(あ)びることにした。

格別熱い湯を浴び心をリセットしよう。

ガラス張(ば)りでカプセル型の、
ポッドのような物の中に入り、
ドアを閉めパネルの温度を設定すると、
すぐに浴室(よくしつ)は全方位からシャワーが噴出(ふんしゅつ)し、
湯気のスモークの中に埋没(まいぼつ)した。

全てを覆(おお)い隠すスモークの中に埋没(まいぼつ)しながら、
キャロンドは、心が少し楽になるのを感じた。

肌を焼く熱めのお湯に、
心身が溶かされ流れて行くような、
苦悩が溶け出し流れて行くような、
それでいて同時に胎内(たいない)に包まれているような、
心地よさを感じていた。