第一話 改造種
文字数 3,424文字
「 アレン 」
大きくて暖かい手のひらが、私の頬をそっとなでた。
その温かさに促されるように目を開くと、
柔らかく優しい瞳がこちらを見つめ、そして、頬をすりよせた。
∫
ジッ…
…
ピッ
ヒュゥゥゥ… カラカラカラカラ…
…ピッ ピッ
Shaaaaaa… n.
『 Launch the Hermes 』
…暗い、とても暗い闇の中にいる。
わからない…
なにもかも…
ただ… 暗い闇が 覆い尽くしている…
「アレン… 」
…どこか、とおくから声がする
…あっ あ か い
薄っすらと、赤い色をした何かが、暗い闇を溶かし、徐々に褐色の世界が目の前を覆い尽くしてゆく。
「アレン!」
えっ…
すると、目の前に見える褐色の世界が、目を覆う程の閃光に包まれ、激しい振動と同時に、けたたましく警報音が鳴り響く。
―Alert! Alert!
―Pi! Pi! Pi! Pi!
何が起きているのかわからない。
考えるだけの何かが足りない!
しかし状況は更に悪化しているのだけはわかる。
「へ、ヘルメス!」
「早く、リ・ロードしてくれ!」
―Alert! Alert!
―Pi! Pi! Pi! Pi!
「Thrusters down ! 惑星に落ちてゆきます!」
目の前が激しい炎に包まれ、赤褐色の大地へと落ちてゆくのが見える。
「ヘルメス!」
―Reboot completed.
「アレン!」
… 惑星の外に 人 …
∫
陽が沈む前は宇宙が見える程に空が高かったのに、大地を照らした光が沈むと、風が強まり、細かい塊となったシリカが吹き荒んでくる。
周囲は衛星の光にぼんやりと照らされた茶褐色の闇が広がり、シリカの嵐に阻まれた視界は目の前の起伏さえ見失う程に悪く、茫漠と続く砂と赤褐色岩の大地にその行く手を阻まれながら、目的の地ドリーブを目指し、赤黒い衣に身を包んだ集団が、ゆっくりと歩みを進めてゆく。
体を休ませるために、屈めた上半身を起こし、ふと空を見た時だった。
遠くの空が赤々と光りだしてきた。
…なんだ
すると突然、赤々とした空の中心が激しい閃光を放ち、轟音を轟かせながら、こちらに向かってきた。
「ブリザガ!」
「隕石か!」
「やばい、こっちに向かってきてるぞ!」
「身を隠せ!」
その言葉と同時に、大地を震わすほどの爆発音が周囲に響き渡り、身を隠す暇もなく、巨大な何かに殴られたかのような爆風で体が吹き飛ばされ、赤褐色の岩肌に何度も叩きつけられながら、必死にその岩にしがみついた。
―くっ!
突然の脅威に恐怖を感じながら、身を屈め、空から落ちてくる光を、細めた目で追いかけると、それは殷雷 を轟かせながら、光の尾を伸ばし、火球となりながら大地へと落ちてゆき、一気に周囲が明るく照らされると、再び体が割れるかと思える程の爆発音が襲ってきた。
…
うっ…
気が付くと、重苦しい大量の砂と瓦礫が体の上を覆い尽くし、全身を圧迫していた。
「クッソ! 何なんだ!」
全身に力を入れるが、右腕が僅かに動く程度で、体は完全に瓦礫と砂に埋もれていた。
その動く右腕に力を入れ瓦礫を押し、何とか体の上からどけると、全身をもがきながら、両腕で砂をかき分け、ようやく顔を砂の外に出す事ができた。
息を切らしながらブリザガは周囲を見渡し、
「おい!」
「ブリッド!」「キャパ!」
「誰かいねーのか!」
ブリザガが近くの砂を見ると、何体かの体が砂の中に埋もれているのが見える。
「ったく!」
そう言いながら、埋もれている体に近付くと掘り起こし、引き上げると、また別の所で埋もれている仲間を次々と引き上げていった。
七体の仲間を引き上げ終えると、ブリザガは息を切らしながら、瓦礫の上に座り込み、再び赤々と燃え盛る大地の方を見た。
「…」
「どうした、ブリザガ」
引き揚げられたブリッドが、座り込むブリザガの横に近付いてきた。
「あぁ…、何か気になってな、あれが」
「隕石か、あんなもの良く落ちて来るだろ、空にある衛星なんて、ハルトマンが撃ち落してるしな」
ブリザガは少し顔をゆがめ、ブリッドの話を聞いている。
「ハルトマンが、神の雷 を破壊しなきゃあんな隕石、落ちて来なかったのにな」
そうだ…神の雷 さえ使えれば、ドリーブのコペリニウスを破壊できたのに。飛べるからってハルトマンの野郎。
ブリザガの脳裏に、同じ改造種のハルトマンとの苦い戦いが脳をかすめ、衛星軌道上からピンポイント攻撃ができる兵器があった事を思い出した。
すると、その嫌な記憶をかき消すように、ふとブリザガが立ち上がり、
「行くぞ」
落ちてきた隕石の方へと歩き出して行った。
しばらく歩いてゆくと、隕石の物なのか、残骸らしき黒く燃え尽きた何かが点在し始め、更に燃え盛る落下地点に近付くと、ブリザガ達の体格をも超える巨大な残骸が散乱し、それは隕石とは違う、なにか人工的に造られたような形状をしていた。
「クソ、ハルトマンの奴、また何か破壊しやがったな」
「…」
ブリザガが、炎の中心にある巨大な影を見つめている。
「ブリッド、あれは何だと思う」
目を細め、火の中心にある巨大な影を見つめるブリッド。
「おい、ちょっとまて」
そう言うと、ブリッドは腰に付けた袋から機械を取り出し、操作を始める。
Pi…
… … …
「新兵器か… データベースには無いな」
―キン!
クリスタルを割ったような、甲高く鋭利な音が頭上に響いた。
それを感じたブリザガ達は、咄嗟に横に飛び、砂を舞い上げる。
それらは、ほぼ同時に行われ、砂煙が舞った大地に矢のような閃光が突き刺さる。
―ハルトマン!
砂塵に紛れるブリザガの視線に、上空にいる複数の巨大な羽を広げた何かが、物凄い速さで接近しているのが見えた。
そして、その何かが蒼白く輝く閃光をブリザガ達に向けて放ってくる。
「ブリッド!あいつの目 を探せ!」
砂の中に身を隠しているブリットが、腰の袋から黒い色の丸い球体を取り出すと、砂の中から手を出し、上空にそれを投げた。
すると丸い球は、上空で分解し、細かい粒となりながら、四方へ拡散してゆく。
その間にも上空のハルトマンは間髪を容れず、攻撃をしてくる。
―クソ! 上空にいるからって良い気になりやがって、今すぐ地上に落としてやるから、待ってろ!
すると、ブリットの視界に第三の目 の映像が映し出され、何かの構造体を表示した。
「ブリザガ! 斜め右後ろ、約1,000ビルトだ!」
それを聞いたブリザガは、カノンを振り上げ、砂の中から飛び出すと、右斜め後方にカノンを構え、同時に赤い閃光を放った。
その閃光は、シリカの嵐に穴を開けながら、一瞬で構造体に到達し、構造体は爆炎を上げ、破壊された残骸が飛散してゆく。
「ハルトマン!」
ブリザガはすぐさまカノンを上空に向け、ハルトマンの狙撃を開始した。
コントロールタワーを失ったハルトマンは、地上に向け青い閃光を乱射しながら飛散し、ブリザガ達から離れてゆく。しかしブリザガは執拗に追いかけ、ハルトマンが見えなくなるまでカノンを放ち続けた。
しばらくすると、ハルトマンが見えなくなり、周囲はふたたびシリカが吹きすさぶ茶褐色の闇に覆い尽くされ、上空を見つめるブリザガの全身に、どっと疲労感が重くのしかかり、彼は腕で抱えたカノンを下ろした。
…むかつく野郎だ。
その足元にも残骸が飛散し、それを蹴り飛ばすブリザガ。
すると、その残骸の下から、なにかキャパ の腕のような物が目に入ってきた。
…ここにもキャパが埋もれているのか。と思い、それを引き上げるブリザガ。
―!
その引き上げた体は、鉛色した見た事も無い種族で、右腕を残して胸から下は失われていた。
なんだ、こいつは…
訝し気に、その体を見つめるブリザガ。
胸の奥が少し青白く光り、まだ生きている様だった。
「…ア ア レン…
半壊の体から何かの音が聞こえて来た。
「おいお前、生きてるのか」
「無事… なの ア レン…
ブリザガには、この体が何かを話しているようである事はわかったが、その言葉を理解する事はできなかった。
すると、腰の袋から黒く薄い丸い形をしたシートを取り出すと、その首下であると思われる場所に貼り付け、砂の上に置いた。
…コペリアでもなさそうだしな。
「こいつも改造種か」
そう言うと、シリカの嵐が再び激しく吹き荒れてきた。
…ア ア レン…
大きくて暖かい手のひらが、私の頬をそっとなでた。
その温かさに促されるように目を開くと、
柔らかく優しい瞳がこちらを見つめ、そして、頬をすりよせた。
∫
ジッ…
…
ピッ
ヒュゥゥゥ… カラカラカラカラ…
…ピッ ピッ
Shaaaaaa… n.
『 Launch the Hermes 』
…暗い、とても暗い闇の中にいる。
わからない…
なにもかも…
ただ… 暗い闇が 覆い尽くしている…
「アレン… 」
…どこか、とおくから声がする
…あっ あ か い
薄っすらと、赤い色をした何かが、暗い闇を溶かし、徐々に褐色の世界が目の前を覆い尽くしてゆく。
「アレン!」
えっ…
すると、目の前に見える褐色の世界が、目を覆う程の閃光に包まれ、激しい振動と同時に、けたたましく警報音が鳴り響く。
―Alert! Alert!
―Pi! Pi! Pi! Pi!
何が起きているのかわからない。
考えるだけの何かが足りない!
しかし状況は更に悪化しているのだけはわかる。
「へ、ヘルメス!」
「早く、リ・ロードしてくれ!」
―Alert! Alert!
―Pi! Pi! Pi! Pi!
「
目の前が激しい炎に包まれ、赤褐色の大地へと落ちてゆくのが見える。
「ヘルメス!」
―Reboot completed.
「アレン!」
… 惑星の外に 人 …
∫
陽が沈む前は宇宙が見える程に空が高かったのに、大地を照らした光が沈むと、風が強まり、細かい塊となったシリカが吹き荒んでくる。
周囲は衛星の光にぼんやりと照らされた茶褐色の闇が広がり、シリカの嵐に阻まれた視界は目の前の起伏さえ見失う程に悪く、茫漠と続く砂と赤褐色岩の大地にその行く手を阻まれながら、目的の地ドリーブを目指し、赤黒い衣に身を包んだ集団が、ゆっくりと歩みを進めてゆく。
体を休ませるために、屈めた上半身を起こし、ふと空を見た時だった。
遠くの空が赤々と光りだしてきた。
…なんだ
すると突然、赤々とした空の中心が激しい閃光を放ち、轟音を轟かせながら、こちらに向かってきた。
「ブリザガ!」
「隕石か!」
「やばい、こっちに向かってきてるぞ!」
「身を隠せ!」
その言葉と同時に、大地を震わすほどの爆発音が周囲に響き渡り、身を隠す暇もなく、巨大な何かに殴られたかのような爆風で体が吹き飛ばされ、赤褐色の岩肌に何度も叩きつけられながら、必死にその岩にしがみついた。
―くっ!
突然の脅威に恐怖を感じながら、身を屈め、空から落ちてくる光を、細めた目で追いかけると、それは
…
うっ…
気が付くと、重苦しい大量の砂と瓦礫が体の上を覆い尽くし、全身を圧迫していた。
「クッソ! 何なんだ!」
全身に力を入れるが、右腕が僅かに動く程度で、体は完全に瓦礫と砂に埋もれていた。
その動く右腕に力を入れ瓦礫を押し、何とか体の上からどけると、全身をもがきながら、両腕で砂をかき分け、ようやく顔を砂の外に出す事ができた。
息を切らしながらブリザガは周囲を見渡し、
奴ら
がいない事を確認すると、シリカが吹き荒れる先に、大地が赤々と燃え盛る場所を見つけ、そこを見つめながら、息を整えた。「おい!」
「ブリッド!」「キャパ!」
「誰かいねーのか!」
ブリザガが近くの砂を見ると、何体かの体が砂の中に埋もれているのが見える。
「ったく!」
そう言いながら、埋もれている体に近付くと掘り起こし、引き上げると、また別の所で埋もれている仲間を次々と引き上げていった。
七体の仲間を引き上げ終えると、ブリザガは息を切らしながら、瓦礫の上に座り込み、再び赤々と燃え盛る大地の方を見た。
「…」
「どうした、ブリザガ」
引き揚げられたブリッドが、座り込むブリザガの横に近付いてきた。
「あぁ…、何か気になってな、あれが」
「隕石か、あんなもの良く落ちて来るだろ、空にある衛星なんて、ハルトマンが撃ち落してるしな」
ブリザガは少し顔をゆがめ、ブリッドの話を聞いている。
「ハルトマンが、
そうだ…
ブリザガの脳裏に、同じ改造種のハルトマンとの苦い戦いが脳をかすめ、衛星軌道上からピンポイント攻撃ができる兵器があった事を思い出した。
すると、その嫌な記憶をかき消すように、ふとブリザガが立ち上がり、
「行くぞ」
落ちてきた隕石の方へと歩き出して行った。
しばらく歩いてゆくと、隕石の物なのか、残骸らしき黒く燃え尽きた何かが点在し始め、更に燃え盛る落下地点に近付くと、ブリザガ達の体格をも超える巨大な残骸が散乱し、それは隕石とは違う、なにか人工的に造られたような形状をしていた。
「クソ、ハルトマンの奴、また何か破壊しやがったな」
「…」
ブリザガが、炎の中心にある巨大な影を見つめている。
「ブリッド、あれは何だと思う」
目を細め、火の中心にある巨大な影を見つめるブリッド。
「おい、ちょっとまて」
そう言うと、ブリッドは腰に付けた袋から機械を取り出し、操作を始める。
Pi…
… … …
「新兵器か… データベースには無いな」
―キン!
クリスタルを割ったような、甲高く鋭利な音が頭上に響いた。
それを感じたブリザガ達は、咄嗟に横に飛び、砂を舞い上げる。
それらは、ほぼ同時に行われ、砂煙が舞った大地に矢のような閃光が突き刺さる。
―ハルトマン!
砂塵に紛れるブリザガの視線に、上空にいる複数の巨大な羽を広げた何かが、物凄い速さで接近しているのが見えた。
そして、その何かが蒼白く輝く閃光をブリザガ達に向けて放ってくる。
「ブリッド!
砂の中に身を隠しているブリットが、腰の袋から黒い色の丸い球体を取り出すと、砂の中から手を出し、上空にそれを投げた。
すると丸い球は、上空で分解し、細かい粒となりながら、四方へ拡散してゆく。
その間にも上空のハルトマンは間髪を容れず、攻撃をしてくる。
―クソ! 上空にいるからって良い気になりやがって、今すぐ地上に落としてやるから、待ってろ!
すると、ブリットの視界に
「ブリザガ! 斜め右後ろ、約1,000ビルトだ!」
それを聞いたブリザガは、カノンを振り上げ、砂の中から飛び出すと、右斜め後方にカノンを構え、同時に赤い閃光を放った。
その閃光は、シリカの嵐に穴を開けながら、一瞬で構造体に到達し、構造体は爆炎を上げ、破壊された残骸が飛散してゆく。
「ハルトマン!」
ブリザガはすぐさまカノンを上空に向け、ハルトマンの狙撃を開始した。
コントロールタワーを失ったハルトマンは、地上に向け青い閃光を乱射しながら飛散し、ブリザガ達から離れてゆく。しかしブリザガは執拗に追いかけ、ハルトマンが見えなくなるまでカノンを放ち続けた。
しばらくすると、ハルトマンが見えなくなり、周囲はふたたびシリカが吹きすさぶ茶褐色の闇に覆い尽くされ、上空を見つめるブリザガの全身に、どっと疲労感が重くのしかかり、彼は腕で抱えたカノンを下ろした。
…むかつく野郎だ。
その足元にも残骸が飛散し、それを蹴り飛ばすブリザガ。
すると、その残骸の下から、なにか
…ここにもキャパが埋もれているのか。と思い、それを引き上げるブリザガ。
―!
その引き上げた体は、鉛色した見た事も無い種族で、右腕を残して胸から下は失われていた。
なんだ、こいつは…
訝し気に、その体を見つめるブリザガ。
胸の奥が少し青白く光り、まだ生きている様だった。
「…ア ア レン…
半壊の体から何かの音が聞こえて来た。
「おいお前、生きてるのか」
「無事… なの ア レン…
ブリザガには、この体が何かを話しているようである事はわかったが、その言葉を理解する事はできなかった。
すると、腰の袋から黒く薄い丸い形をしたシートを取り出すと、その首下であると思われる場所に貼り付け、砂の上に置いた。
…コペリアでもなさそうだしな。
「こいつも改造種か」
そう言うと、シリカの嵐が再び激しく吹き荒れてきた。
…ア ア レン…