後編~パターン1

文字数 607文字

「何の話ですか?」

 ――返信にはそれだけあった。しかし、私は確信した。

 本当に身に覚えがなければわざわざ返信はしない。身に覚えがあるから、

返信をしたのだ。

「この手の食中毒の情報は、ご丁寧に市の名前まで新聞やテレビなどのメディアに掲載されるのよ。●●市にお住まいなのね。割と近いわ。いいえ、ご心配なく。警察に言ったりはしないから。ただ、成功してよかったわねって言いたかっただけ」

 ややしばらくして、また返信があった。

「良かったら、お会いできませんか? いろいろ教えていただいたお礼をしたいので」

 私はすぐに返信した。そんな必要はない、と。しかし。

「いえ、あなたのお蔭ですから。保険金も入りましたし」

 食い下がってくる。
 しかし、私にはわかるのだ。目的は、お礼よりも口封じだと。

 何故分かるのか? 自分も同じ経験をしたからだ。私の場合は、夫ではなく実母だったが。そうして、二人目のターゲットは、ネットで知り合った名も知らぬ他人ではなく近所の顔見知りの主婦だったが。

 私は、自分のアカウントを消した。

 本当は、私は、自分自身の罪の意識を拭うのに彼女を利用させてもらうつもりだったのだ。
 私だけじゃない、同じことをやっている人はたくさんいる――そう思って罪悪感を薄めようとして、その目的は達成していた。
 しかし、きっと彼女はこの先一生、おびえながら生きていくのだろう。

 私はどうも、恩を仇で返す人間のようだ。

(了)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み