第6話

文字数 862文字

家まで車で5分。
父親が乗り込むなり切り出す。
「パパ?」
「ん?」
「昨日の夜、おうちにもおんなじ格好の、大きな蛇がいたんだよ。ママも先生も友達も信じてくれないけど、こんなにおっきな蛇が、2匹、お布団の上でさ」
両手をいっぱいに広げて見せた。
父親は、少し考えて言った。
「さっきの蛇もそうだけど、子どもを作る為に2匹がくっついてじっとしてなきゃならないから、動物に食べられないように安心出来る場所で、隠れて見つからないようにしたいよね。はずかしいから隠れるんでもなくて、悪い事だから隠れるんでもなくて。大事な事なんだよ、きっと。だから、パパはあの小屋の蛇、そっと知らんぷりしたよ。もしかしたら柚乃ちゃん見た蛇も、みんな眠ってるおうちが、安全な隠れ場所だったのかもね」
「でも、朝起きたら、居なかったんだよ、蛇。パパが外に出したのかと思った。それでママも知らないのかなって」
「うまくいけば、短い時間で済む事もあるのかもしれないよ」
「でも、本当は人間だってそうしてたいのかも。好きな人と1日ずっとくっついてさ。柚乃ちゃん、パパが1日くっついててやろうか?」
「キモっ!嫌なんですけど。ママなら、良いかも」
「酷いな、柚乃ちゃん。パパはママも柚乃ちゃんも結ちゃんも、お兄ちゃんも、みんな大好きなんだけどな」
「ママ以外嫌がるわ!ママだって、嫌かも…、ママだって…」
そう言った時、足にむず痒さを感じて視線を落とすと、夏のサンダルの素足の足先から、なんだか鱗が膝に向かって登って来るみたいに見えて、驚いてかたく目を閉じた。
恐る恐る目を開けると、そこにはいつもの自分の脚。
「あれ?」
「どうしたの?」
「んー、なんでもない」
「そっか、疲れたんだよ、セーチョーキだし」
「パパもママもセーチョーキセーチョーキ、うるさいな」
到着、車を降りると、
「パパまだお仕事、夜中はバイト行くから、今夜は帰らないってママに言っといてね。ママ心配したかもだから、怒られたら謝るんだよ」
「はあい」
母親は、何もなかったように迎えたが、少し機嫌が悪そうだった。

その晩、蛇は現れなかった。
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