第5話

文字数 527文字

父親はなかなか来なかった。
開けっ放しにはしないだろうから、そのうち来るだろう。
しかし、日が陰り始め、空気がひんやりして来ると、少し心配になった。

蛇はじっとしてて、辛くないんだろうか?
そんな風に思っていた。

車の音。
近づいて来る。
「パパだ!」
すぐに飛び出したい気持ちで一度立ち上がる。
抑えてまた座り、待つ間、「本当にパパだろうか?知らないおじさんだったらどうしよう?」
と、少し怖くなった。

ドアの閉まる音。
足音が近付く。
小屋に入って来た父親は、彼女を見て不意な先客に驚いたが、彼女が黙って指差す先に絡まり動かない蛇には驚かなかった。 
知っていた様だ。

「柚乃ちゃん、びっくりしたなあ。かくれんぼかい?みんな帰ったんじゃない?もうすぐ5時だよ」
「パパ、それより、蛇、絡まって解けなくなったのかな?わたし来てから結構経つけど、ずっとあのまんま」
「あれはね、しばらく動かないよ。カップルだよ。柚乃ちゃんもママにはくっつきたくなるでしょ?」
「良く蛇は執念深いみたいな、悪い例えに使われるけど、好き同士は1日でもああしてくっついてるんだよ。それで卵が出来て、子どもが生まれるんだ」
「ふーん」
「さあ、帰ろう。車に乗ってて。パパ窓閉めていくから」
黙って小屋を出て、車に乗った。
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